深夜とコーラ

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 足はダルく、肺が冷たい。  それでも走り続ける。  路地を左に折れて、坂道を登っていく。街灯はまばらになり、辺りは一段暗くなる。足元は見ずに顎を上げて走る。  丘の上の公園に着くと俺は光を求めて彷徨った。 トイレと自動販売機が肩を並べて立っている。迷わず自動販売機でコーラを買う。一本を取り出した後、もう一度小銭を入れてボタンを押した。  両手にコーラを握りしめて、一番高い場所を探す。  腕を大きく振って走る。  塗料の剥げかかった赤いジャングルジムを見つけ、俺は登り始める。  頂上で仁王立ちになると世界を見渡した。  空も山も街も真っ暗で光なんてどこにもない。  俺は一本目のコーラを開けて一気に飲み干し、二本目を開けると腕を伸ばして頭から被った。  頭皮にコーラが染み込み、流れてきた雫が眉間を伝い目に入った。左目に強烈な刺激が走り俺は目を開けていられなくなる。拭った手はベト付き、Tシャツに染み込んだコーラが体温を下げていく。  ボトボトとジャングルジムに溢れる液体を見ながらセリナの涙を思い出した。俺を引き止めながら流していた涙は、いったい何色だったんだろうか。    膀胱が破裂しそうだ。  身体中が凍えるほど寒い。  甘ったるい匂いとベタつく手が気持ち悪い。 「となりのトトロ!」  叫び声は闇に消える。  どうして俺は覚えているんだろう。  自分から捨てたセリナの好きなものを覚えている。  満月でもないのに嬉しそうに月を見る彼女や、残すくせにチャーハンをいつも大盛りにする彼女をありありと思い出せる。  俺はジャングルジムから飛び降りた。着地に失敗して派手に転び、アバラと肘を打つ。  そのまま大の字になって宙を見た。  目の前は真っ暗だ。  俺は手に持っていた缶を口につける。  もう、コーラは残っていなかった。                  Fin.
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