水の怪

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真夏の夕方、いきなり雨が降ってきた 霊は湿気を好む 雨の時、そこらじゅうに成仏できない浮遊霊が蔓延している。 同じ波動で生きてる人間に近寄る 救われたいが為に取り憑く 気圧の変化で体調は悪くなる それと共に 霊的にも悪い波動に曝される。 雨の夜道を歩いていると ぞわっとする時がある 猫ならば背中の毛が逆立つような感じであろうか 日本は四季のある国 今では人為的に天候を操る事も可能な世の中 毎日、風呂に入ってる時 自然と仕事であった嫌な事を反芻している 過去を思い出し悲しがり苦しみ そして下の世界ばかり見る事になる その結果、望んでいなくても 下から同じ波動の地獄界の住人と波動が重なり 地縛霊や浮遊霊を呼び寄せる 上を向く事で天国と繋がり 運命にも祝福され 守護霊様の声をより聞きやすくなると云う。 気が滅入る雨 だけども農業従事者にとっては 恵みの天水だと聞く その通りであろう 何事も一面だけでは判断できない 立場が変われば考え方も変わる 今はもう戦後の昭和や平成時みたいな 平和な日本ではなく令和は戦時中そのもの 無差別で生物兵器の餌食となる時代 そんな時代で今まで通りの価値観など 無意味になってきた そんな世でも変わらないものがある 水は人の波動を記録する 循環しても水がその空間に記録する 寒さは悲しみを甦らせる この世で不思議なこと 僅かな救いではあるが それも人同士のすれ違いから起きる 錯覚であることも、この世の理 心は深い悲嘆の淵にあったとしても 生身の体には生きる意欲があり 辛い別れの悲しみから立ち上がれない人に 「食事はとれていますか?」と尋ねて 「はい」と答えが返ってきたら安心できると聞く 呼吸が溜息と呻き声になってきている私に そんな事を聞いてくる精神科の主治医の教科書通りの問診 私は食事が目の前に出されたら 空腹じゃなくても食べれる それでも鬱状態は継続している つべこべ言わず 薬だけ出しておけばいいものを、 この世は仮想世界 そんな舞台で好んで悪役なんか演じてどうするのか? 皆が全て天国から生まれてきた訳ではない 中には地獄界から生まれ出た魂もある 私が生きにくいのは私自身の問題なのか それとも環境が原因なのか 自業自得だと諭されても あんた達に何が分かると言いたい 個性的な顔をしている それが私が感じた、あの男の第一印象 鰻、そうあの鰻だ のっぺりして色黒だが血色は良い ぬるぬるしている 「雨ですからね」 ぶつぶつ独り言を言いながら 立っていた男がいた 「ねえ、あなた」 私は赤の他人と話したくはないので ひたすら無視して煙草を吸っていた。 だいたいコンビニ喫煙所で 偶々、隣同士になっただけで 私に話しかけてくる頭のおかしい人と 談話する趣味はない 「ねえ貴方、空の色が赤くなってきましたね あれはもうこの世の終わりを現わしているのですね」 ・・・・ 「ねえ貴方、地球上の生き物はすでに6回も滅亡しているのです。 アスがね、最初はアスしか人類を作らなかったのですよ それがね、イヒンと交配する事でドルークとヤクを作ったのですね そしてね、イフアンを誕生させたのです。 それからです。この世が荒廃してきたのは」 ・・・・ (この男は狂ってる、何を言ってるのかさっぱり分からない) (早くこの場を離れよう) 雨が激しくなってきた 斜めに降って来て屋根が用を成さない豪雨 それでも私はこの男から一刻も早く離れたかったので 傘をさしてその場を離れようとした 立ち去る私の後ろから また男が声をかけてくる 「ねえ、貴方は約束を破りましたね 貴方の記憶、早く戻るといいですね」 ・・・・ (何を言ってやがる、このキチガイめ) 私は夜のコンビニに煙草を吸いに行った事を猛烈に後悔した その夜、不思議な夢を見た 水の中の世界、無音、夜の魚 魚が泳いでいるから水底だと認識できる 透き通っていて綺麗の世界だったが漆黒の闇 岩の間から黒くて長いものが蠢いている。 私はその黒いものと目があい どちらも目を離さない 私には分かっている この黒いものの正体が鰻である事を そして私は先日、約束を破ってしまった事を急に思い出した 取引先の接待で、つい鰻を食べてしまった事を、 私の血筋は代々鰻を食べてはいけない家筋である。 現代の令和の時代に何をバカな掟があるものかと私自身もバカにしていたが でもあるのだ 私の血筋にはまだ脈々と受け継げられている 私の家系は鰻の神様に守られている 祖父も、失くなった父親も頑なにこの掟を守っていた お陰でうちは幸運に恵まれていた 私の家は私が生まれてからお金に困った事は一度もなかった 田舎の栃木県では大地主で大きな土地と山をいくつも持っていた 私の父親は東京にて世界でも信用されている日本有数の大企業の社長にまで出世した。息子である私の職種は医者で社会的にも成功している人生を歩んでいる。 子供の時に祖母から聞いた事がある。 我が家の守り神様は鰻である。 昔は龍神様と呼ばれていた 決っして長いものを食っちゃなんねえぞ、と 狐憑き、犬神憑き、蛇憑きとあるが 鰻憑きもこの世ではあるのだ。 私は掟を破ってしまったようだ。 このまま何も起こらない事を望んでいる。 今の令和の時代にそんな事があってたまるか 何日が経ち 忙しいながらも患者様は後を断たず 平凡ながら仕事は順調で平和な毎日が続いた。 ある時、記録的な大雨が襲ってきた。 私は決壊した川に飲み込まれてしまった 朦朧とする意識の中で また、あの鰻と出会った (約束を破ったお前は、こちらの世界に来てもらう) 私は抗い命乞いをしたが意識が遠くなり 私の体から魂が抜けて水と一緒に意識が同一化していった。 大雨で天災があった後の嘘のような青空の日 小さな女の子の手を握りながら歩いている母子がいた 「ママ、あの川から声が聞えてくるよ」 悲しそうな声が聞こえてくるよ」 (決して鰻を食べちゃいけないよ うちの血筋は鰻憑きだよ、神様を食べちゃいけないよ)
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