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とりあえず、この後荷物にしたくないと考えて、あやみはペットボトルのお茶を飲み干した。
隣を見る。佐倉が飲み物やタブレットをビジネスバッグに仕舞い込んでいた。
ああ、早めに降りる支度をしているんだなと思って、何となくそのまま、見つめてしまう。
佐倉らしい、几帳面な行動。
そういうところ。
でも、ずっと見ていては、ダメだ。
意識するのはもっと良くない。
あやみがそう気づいた時、視線に気が付いたらしい佐倉が、こちらを見た。
目が合ったのを、ぷいっと逸らしたら、怪訝そうな顔をされる。
「なんだよ」
「別に……動いてるものに目を奪われるのは、動物の性ってものでしょ」
苦しい言い訳だったけれど、意外と佐倉は納得したようで、それ以上何も言わなかった。
ビジネスバッグを膝に載せ、スマートフォンを取り出した佐倉を見届け、あやみは窓の外を眺める。
そして静かに決意したことがあった。
やっぱり、わたしはこの人のことが好きだ。
だから。
少しずつで良いから、また元の自分たちに戻れるように、行動したい。
自分の不器用さを、気持ちを封印する言い訳にはしたくない。
この出張が終わったら、新しい何かを始めよう。
この気持ちが日の目を見ることが出来るよう、私は行動し続ける。
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