ケンカップル、部長を捜索する

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朝が早いため人気のないロッカールームに立ち寄り、コートとストールを早業で収納して、急いでデスクに向かう前に、パウダールームへ。  汚れひとつない大きな鏡と籐のチェアのブースが並ぶシックなパウダールームは、このオフィス内であやみが一番気に入っている場所だった。  最奥のブースに向かい、鏡で念入りに自分の姿をチェックする。  急いではいるが、最低限の身だしなみが整っていないとその日一日がダメになるというビジネスハックを以前SNSで見て、あやみはいたく共感したのだ。  だから最低限、まずは前髪。それから、ファンデーションやリップがよれていないか。アイメイクが落ちて目元が汚くなっていないか。  あれやこれや、合計30秒ほどかけて点検する。  具体的には、「向かいの席から見られても恥ずかしくない状態かどうか」を確認して、ようやくあやみはフロアへ向かった。  大きな窓から入ってくるやわらかい日差しを浴びながら、背筋を伸ばしてつかつかフロアを歩き、自分のデスクへと向かう。  なんせフロアが広いので、やや汗をかいてしまった。  あやみの仕事は秘書である。  この証券会社には20人ほどの秘書がいて、仕事は一流だがその他の部分は一癖も二癖もある担当上司たちのサポート業務を、それぞれ全力で行っている。  秘書のいる役職者には個室があてがわれていた。  その個室の前のデスクが、秘書の席。  通常は一人の役職者に一人の秘書がつくため、デスクは一つのはずなのだけれど。
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