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あやみのデスクの向かいにはもうひとつワーキングデスクがあり、同期の佐倉伶が座っていた。
「おはようございます!!」
伶があやみの声に顔を上げ、ボソッと言い放つ。
「お前、遅い」
「いやこれでもけっこう急いで来たんですけど!?」
いつもであればあやみは2分もかけてじっくり身だしなみを整えるのだ。その時間を約75%も削減して30秒に短縮し、汗をかいてヒィヒィ言いながら競歩みたいな早い歩き方を意識してここに来たというのに。
「で、トラブルってどんな?」
あやみと伶は二人で同じ担当上司の秘書をしているのだ。
これは、なかなかに異例なことと言えた。
伶は返事をせずにPCのモニターをにらみつけ、画面と思しき一点を長い指で指ししめした。
あやみからは見えない。
「……?なに?」
あやみは伶の背後に回りこみ、画面を覗きこもうとした。
そうして伶の背中に近づいたとき、突然伶がワーキングチェアごとあやみからガーッ!と遠ざかる。
その動きの速さにあやみはびくりとした。
もしかして、汗くさかっただろうか?
若干のショックを感じつつも、ムッとした。なにもそこまで露骨に距離を取ることはないのでは、と思う。
なんと無神経な男なのだろうか。
腹が立ったが、それはそれとして全速力でここに駆けこまなかったのは事実なので少々の負い目もあり、あやみは大人しく伶のPCを覗き込んだ。
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