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会議の資料を作る時によく使う表計算のフォーマットをひと目見て、あやみは衝撃のあまり「ヒィッ」と悲鳴を発した。
「……これ、全部壊れてるの?」
「いま確認してるけど、全部ではない。全部じゃないから逆に厄介ともいえる」
伶はワイヤレスのキーボードを左手で叩きつつ、右手でマウスを操作して、全12シートに渡るフォーマットの「損壊ぐあい」をあやみに確認させた。
今日は始業から一時間もしないうちに、大事な会議があるのだ。
その会議に必要不可欠なメインの資料が、「ぶっ壊れている」。
「な、なんでこんなことに……?」
「わからない。そしてそれこそが『及川マジック』と言えるな。元データもバックアップも全部壊れるって、逆にどうやったらできるんだ」
犯人はわかっている。
二人の担当上司である及川営業部長だ。
あやみは若干のふらつきをおぼえつつ自分のデスクへ戻って、足元に置いたかごへ持ったままだったハンドバッグをていねいに収納し、とりあえず自分のPCの電源を入れた。
それから立ち上がりちょっと一息つこうと窓際のコーヒーサーバーへ向かおうとすると、
「おい椿、逃げるな。二人で協力すればどうにかなるだろ!」
窓の外を穏やかな目で見つめ始めたあやみを見てまずいと思ったのか、焦りをにじませた声で伶が言う。
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