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「協力って、どういう分配で?」
「俺2シート、椿10シート」
「ちょ、うそでしょ!?」
驚いて、鼻水が出そうになった。
つまり壊れたシートをどうにかする超絶めんどくさくて時間のかかる作業の多くを、あやみに押し付けようというのだ、この男は。
「椿の方が表計算得意だしその方が早いだろ。俺はリテール部門の別資料と、マーケットの状況を原稿に落とし込む作業をやらなきゃならない。会議が始まる前までに、だ」
何もいじっていないくせにやたら整った眉をひそめて、伶が諭すように言った。
別資料の取りまとめには専門的な知識とそれなりの実務経験が必要となる。
そこを主張されるとあやみも弱かった。
あやみは口に手を当て、数秒ほど黙考する。
結果、どう考えてもいま優先されるべきなのは伶の方だった。
しかしながら、あやみはあやみでもろもろの細かい業務があって、忙しい。
部長が円滑に仕事を進めるためのアウトソーシングを一手に担っているのは、むしろあやみの方なのである。
「うう……でも、でも、2:10は無理」
「じゃあ俺4シート、椿8シートにするか?」
「えっホント!?じゃあそうしよ!」
最初の提案よりも2倍の仕事を伶が引き受けてくれるとあって、あやみはすぐに首を縦に振った。やっぱり伶は優しい。
さっそく社内チャットを開き、伶から共有された表計算ファイルを開く。
めんどくさいことは早めに処理。これは出来るビジネスパーソン・椿あやみが提唱するビジネスハックの、奥義とも言えるひとつである。
が、あやみはすぐに気がついた。
「え、今のってもしかしてドア・インザ・なんとかテクニック的なやつ?」
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