アイリッシュ・パブで昼食を

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 周りの客が席を立ち始める。わたしたちの甘やかな時間も終わりを告げる。ヤスヨさんはコーヒーカップについた口紅を指先で拭った。  職場までは歩いて3分、さらに歯磨きなどをする時間を考慮すると、10分前には店を出るのが賢明だ。先払いシステムのこの店では、退店時に会計でバタつくこともない。  今度は、夜に一緒に呑みに来たいです。そんな言葉を口の中で転がしながら腰を上げる。ビネガーの香りがまだ漂っている。  足元に置いた荷物入れのカゴから鞄を取りだそうと身をかがめたとき、テーブルの下のヤスヨさんの足元が目に入った。  ほどよく履きこまれた合皮のストラップシューズ。その足首を包む黒のストッキングが、小さく電線している。
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