近づく気持ち

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「俺、大学は、関西のほうに行ってて」 「へえ」 創太は、篠田の昔話を聞けるのが嬉しかった。 「で、その時、独り暮らししてたんだけど。親元から通ってる奴らが毎日のように遊びに来てさ。で、作り方教えて貰ったんだ」 「そうなんだ、本場仕込みですね。楽しみ」 と創太は言う。 「うん。その、来てた奴らの中に嫁さんもいて、さ」 「あ…」 創太は、ドキドキした。聞いてもいいんだろうか…。 「だから、まあ、嫁さんに教えて貰ったんだよ」 「そうなんですね」 創太は、切り終わったキャベツをボウルにいれて、お好み焼き粉を混ぜる。 「あ、粉、少なめでいいよ。そのほうが、サックリできる」 「あ、はい」 少しだけ嫉妬しながら、学生時代の篠田のことを思う。 みんなでワイワイお好み焼きを焼くなんて。創太には、そんな経験はなかった。 「いいですね、そういう思い出。俺は、なんにもなくて」 「そうなの?」 意外そうに篠田が言った。 「はい。俺、刺繍オタクなんです。恥ずかしいんですけど。だから気の合う友達とかいなくて」 他人に話したのは、始めてだった。 刺繍なんて女の人の趣味みたいで、恥ずかしい。 「あ、それで、バッグに!」 「はい」 「あれ、凄いね。まさか、自分で刺繍したとは思わなかった」 篠田は、しきりに感心している。 「祖母が凄く刺繍が上手くて。子供のころに教わったんです。それでハマって。今もハマり続けています」 と笑うと、それはすごい!とまた感心された。 「何かひとつのことを続けるって凄い才能だと思う。俺、樹にもそういうの見つけて欲しいと思ってるんだよ」 いつの間にか樹がやってきて「そーた、遊ぼうよー」と脚にしがみついてきた。 「あ、えっとちょっと待っててね」 創太は、どうしようかと篠田を見た。 「良かったら遊んでやってくれる?お好み焼きは、俺にまかせて」と篠田は笑う。 「あ、はい、それじゃ」 創太は、樹に引っ張られるままリビングに移動した。 「これ、そーたに貸してあげる」 樹は、そう言ってティラノサウルスのフィギュアを渡してきた。 「ありがとう」 創太は礼を言う。 「いっくんは、これ」 「お、フタバスズキリュウだ!」 「うん!つよいよお」 ガチャンガチャンと恐竜をぶつけ合う。 「おー、強い!」 きゃっきゃっと喜ぶ樹が本当に可愛いな、と思った。 「黒川くん、兄弟居るの?」 篠田は、リビングにホットプレートを運んできた。 「あ、はい、2つ下の弟が」 「そうか」 「…うち、親が再婚なんです」 「そうなんだ、じゃあ弟さんていうのは」 「はい。父親の方の連れ子で。なんていうか、やっぱり気を遣わせちゃって、父親に。いい人なんですよ、義理の父。それで、家を出ようかな、と」 「そうか…。色々あるよね。生きてると」 篠田は、少し遠い目をした。
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