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午後からも、また高山に怒鳴られながらなんとか仕事をこなした。
…褒めてた、なんて本当かな?
ちらっと高山を見る。
「なんだよ」
「いや、なんでも」
「あのさ。俺だって別に怒りたくて怒ってるわけじゃ」
「そうですよね…ごめんなさい」
創太が謝ると何故か高山は顔を赤く染めた。
「あのさ、トロ川、今日終わってから…」
「高山ー!ここ、どうなってる?!」
遠くから声がかかる。
「あ、はーい!今行きます!」
高山は、呼ばれたほうに走っていった。
…もしかして、今、誘われた?
いやいや、まさかね。
創太は、ちらっと高山を見てから、仕事に戻った。
──────
19時。仕事を終えて帰り支度をする。
…明日は、やっと休みだな…
たまには、ちやんと料理でもしよう、と創太は考えていた。
「お疲れさまでしたー」
出入口で警備員に挨拶をして倉庫を出た。
7月になって、日は長くなったけれど、19時はさすがにもう薄暗かった。
涼しい夜風が心地好くて、一瞬目を閉じる。
「おーい!ちょっと待てよ!」
創太は、ギクリとする。いつも怒られているこの声の主は、見なくても判った。
聞こえないふりをして足早に歩くと、肩をぐっと捕まれた。
「トロ川のくせに無視すんな」
「あ、すいません」
創太は、また謝った。
「だから、謝るなって、もうイライラすんなぁ!」
高山が怒っていると、不意に声をかけられた。
「そういう誘い方は、スマートじゃないなぁ、高山」
篠田が笑って立っていた。
「「あ、篠田課長」」
二人で同時に声が出た。
「お疲れさまです」
創太はぺこりと頭を下げる。
「おつかれっした!」
高山も頭を下げた。
「ちょっと強引過ぎないか?高山くん」
篠田は、クスクスと笑っている。
「え?あ、はぁ…」
高山は、また顔を赤くした。
「好きな子に意地悪するのは、小学生のやり方だよ?」
じゃあ、おつかれさま、と篠田は、帰って行った。
創太は、その後ろ姿にぼんやり見とれる。
「篠田課長、偉いよな。ひとりで子供育ててさ」
高山が照れ隠しのように言う。
「え?そうなの?」
「ああ。確か奥さん、子供産んですぐに亡くなってさ。それからひとりで」
「そうなんだ…」
創太は、またぼんやりと課長の背中を見る。
「気になる?」
「え?!」
高山に言われて、顔が熱くなる。
「そんなことは…」
「はぁぁあ!なんかシラケたな!俺、帰るわ!じゃあな!」
ポンと創太の肩を叩いて高山は、帰って行った。
創太は、ちょっとホッとしていた。
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