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近づく気持ち
「実はさ、俺、お好み焼きかカレーしか作れなくてさ」
エコバッグからキャベツや卵を出しながら篠田は言う。
創太は洗面所を借りて、樹と一緒に手洗いうがいを済ませ、手伝います、とキッチンに立つ篠田の横に並んだ。
「そうなんですね。でもお好み焼き、好きなんで良かったです」
創太は、キャベツを洗うためにボウルを借りて水をジャーッと出す。
樹を見ると、慣れているのだろう、自分でテレビ下のキャビネットから恐竜のDVDを取り出してセットしている。
「あれ観てるときは、大人しい」
篠田は、クイッとアゴで樹を指した。
「お気に入りなんですね」
「そうそう」
さっきまで怒っていたのに、もう樹を見て目尻が下がっている。
本当に可愛いんだなあ…
創太は、二人をみて微笑ましく思った。
「あ、ごめん、ちょっと洗濯物」
篠田は、そう言うと手を拭いて洗濯物を入れるためにベランダに向かった。
本当は三人で暮らす為に購入した2LDKのマンションは、二人で暮らすには少し広すぎるらしく、ひと部屋は、納戸のように色々突っ込んである、と篠田は言っていた。
もうひと部屋は、寝室になっていて、着替えやら布団がゴチャゴチャ置いてあるらしい。
篠田は、洗濯物をその部屋にガバッと放り込んだ。
「片付けが苦手でさ」
と苦笑いして、篠田はキッチンに戻ってきた。
確かにダイニングテーブルの上にも雑誌やら新聞、保育園のプリントやらがゴチャゴチャと置いてあり、ここで食事をしている気配はない。
「メシは、リビングのテーブルで食べるから」
と言いながら、篠田はザクザクとキャベツを切り始めた。
「はい、じゃあリビングのテーブル拭きますね」
そう言って創太は軽くテーブルを片付けて、綺麗に拭いた。
創太は部屋の整理整頓も割に好きだったので、正直、片付けたくてウズウズしてしまう。
けれど、さすがに余計なお世話だろうと我慢した。
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