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プロローグ
黒川創太は、子供の頃から、細かい作業をするのが好きだった。
男らしい遊びをしろ、と父親に口煩く言われながらも、こっそりビーズに糸を通したり、フエルトで小さなマスコットを作っては悦に入っていた。
特に好きだったのは、手芸の上手な祖母が刺す刺繍で、いつも隣に座り、飽きることなく見ていた。
たまにハギレや余った刺繍糸を貰うと、嬉しくて、見よう見まねで生地に鉛筆で下書きをして、その上をなぞるように針を刺して糸で絵を描いた。
線は、歪に曲がりくねり、縫う長さもバラバラだったけれど、祖母は、とても褒めてくれて、余計に夢中になっていった。
「男の子とか女の子とか遊びを分けるなんてねぇ。バカバカしい」
祖母は、そう言っていつも笑ってくれた。
「創太は、創太。好きに生きればいいのよ」
そんな大好きだった祖母が亡くなって、もう10年になる。
創太は、22歳になっていた。
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