間の山の庄助

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「秘密は作らないでおくれな」庄助の手から重ね受けた枕箱が盛大な音を立てて崩れた。 「おやまぁ珍しい」素間は細い眉を上げる。 「何の話や」撥ね付けたつもりが、声が掠れて庄助は唇を噛んだ。 「お前、あたしに言ってない話があるだろう」ぴくり、と背が震え、枕箱を拾う庄助の手が止まった。 「お前は。茂吉から神隠しの話を聞き出したが邪魔が入って引き上げたと言ったね」  庄助の背にすーっ、と冷たい汗が流れた。 「その邪魔とは。こいつと関係あるんじゃああるまいねっ」  肩を掴まれ身を返した庄助の目に、心配事の種を纏った素間の姿が映る。 「あたしの鼻は良く利くんだ、常にない臭いが村にあると気付けばすぐに元は探れる。木の上に吊すなんて猿にでも持って行かれたらどうするんだ。お前、これがいくらすると思ってるんだい。まだ支払いが残ってるんだよ。そんじょそこらの品とはわけが……」  捲し立てる素間の言葉は庄助の耳には入らない。来るべき時が来たと庄助は観念した。 「牛のしょんべんや」息を吐いた庄助に素間がひっ、と息を引いた。「お前……」絶句する素間は初めてだ。 「あたしを差し置いて茂吉と言い交わしたのかい!」  眦を吊り上げた素間は臭う着物を庄助の鼻に押しつけた。     拝田村の奥まった一角、ひっそりと佇む堂に狐神が祀られる。狐と言えば稲荷だが、本来、稲荷神社に祀られる神は豊穣神。作物を荒らす害獣を食う狐は神の御使いだ。
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