アイに包まれたこの世界で

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 心なしかとてつもないオーラを感じる。急に2人きりになり、気まずい空気が流れた。……私、一体この空気をどうするべきなんだろうか。  「娘、具合のほうはどうだ?」  先に沈黙を破ったのはハデス様のほうだった。  「あ、えっと……少しまだ体が痛みます」  「そうか」  あれ?なんか……。  「あのハデス様、体調があまりよろしくないのですか?」  「……何のことだ」  ほーう、とぼける気ですか。  「顔色が悪く、少し青ざめて見えます。ちょっと失礼しますね」  「な、何をする!」  ハデス様が離れるよりも早く、私は右手を彼の額に、左手を自身の額に近づけた。うーん、やっぱり熱がある。  「おい、離さないか!」  「大人しくしててください」  服の袖をめくると、そこはひどく爛れていた。  「ハデス様、やはり具合が悪いのですね。平気そうにしていますが、本当は歩くのも辛いんじゃないですか?」  「……。」  ハデス様は視線を逸らす。  これは、図星ということらしい。  「こう見えても私は医者です。病人は見ればすぐわかります。正直、今の私は起き上がるのさえ厳しい状況です。できることならすぐにでも治療をしたいところですが……。仕方ありません。とりあえず――」  部屋の外を見ると、一人のガイコツが通りかかるところだった。  「ちょっと、そこのあなた!」  動けないので、懸命に大声を出して呼び止める。    「今から私が言うものを集めてきてくれる?」  「人間の命令など聞きたくはない」  ……おおう、お前もそんな態度か。ものすごいデジャヴを感じるな。  私はそのガイコツに事情を説明した。始めは露骨に嫌そうな顔をしていたが、自分の主人が大変だということがわかると、血相を変えて飛び出していった。  「毎日必ず、さっきほど私が言ったものを飲んでください。そうすれば体から毒が抜け、大分楽になるでしょう」  「おい娘、余計なことをするな」  ハデス様は冷たく言い放つ。  「私は神だ。お前たち人間のように死ぬことはない。放っておけ」  棘のある言葉が突き刺さる。しかし、そんなことを言われたくらいで引き下がる私ではない。  「病人は大人しくしていなさい!」  ハデス様は驚いた目で私を見た。  「ハデス様、たしかにあなたは人間ではありません。死ぬことはないのでしょう。しかし、それゆえにその病はあなたの体を永遠に蝕み続けるのです。あなたは永遠に苦しまれ続けるのですよ。病気を甘く見てはいけません。」  「……。」  「私の怪我が回復したら、きちんとした治療を行います。それまで安静にしていてください」  「……。」 ……はっ!私、かなり生意気なこと言い過ぎたかもしれない。否、絶対に言い過ぎた。彼はこの世界の王なのだ。もし彼が怒れば、私の命など簡単に消される。それこそ、本当に死んでしまう。  ああ、終わったな。一度でいいから、結婚とかしてみたかったな……。  「……娘、名は何と言う?」  「セ、セレイナと言います……」  「そうか。セレイナ、この私に臆さないお前のその態度、気に入った。お前に私の治療を頼もう」  ハデス様は私を真っ直ぐに見つめ言った――。
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