第3章:君は居る、わたしはルーイ

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「ぎゃあああああ!!」  最初、その悲鳴をあげたのが誰か、わからなかった。自分かと思ったよ。この整った顔できったねえ悲鳴あげちゃったなーって。  でも、背後で乾いた音を立てて金属製の何かが床に落ちる音がした事で、声の主は、わたしの背後に迫っていた何者かなのだと知る。  皇帝と一緒に振り向けば、黒ずくめの服に身を包み、覆面で顔を隠したー……これは体格的に男だな、が、剣を取り落とし、胸をおさえて倒れ込むところだった。 『暗殺者』  その三文字が脳裏に浮かんだ瞬間、どばっと冷や汗が全身から噴き出した。  ウワア。  アーリエルーヤ(わたし)は皇女のままでも、命を狙われるのか。 「大丈夫か、アーリエルーヤ!」  皇帝が深刻さに満ちた声と顔で、わたしをかばうように前に出る。  ナダの赤い瞳がこちらを一瞥して、それから、うずくまる暗殺者にふっと視線を戻すと、無言で短剣を振り上げた。  ウワーーーーーッ!!  待て待て待て待て!! 「おやめなさい!!」  おおー……。咄嗟にアーリーエルーヤの喋り方が飛び出して良かった。ナダがぴくりと動きを止め、のろのろとこちらに向き直る。  その顔には、表情というものが一切無くて、まるで人形のように、冷たい。 「何故ですか」  ウワーーーーーッ静かな方の飛雄くん声出たーーーーーーッ!! 想像そのまんまーーーーーーーッ!! ありがとう「わたし」の妄想力!!  いや、萌えてる場合じゃない、落ち着けわたし。  ナダと接触してしまった以上、破滅フラグを立てない方向へ、全力で持っていかなくちゃならない。 「こいつは貴女の命を狙っていました。殺気を放つ者は、殺すべきです」  ナダは、わたしがとどめを刺すのを止めたのを、不服に思っているようだ。わけがわからない、とでも言いたげに、無表情で告げる。  殺されかけた衝撃で、心臓はまだばくばく言っている。  だけど今は、それにかかずらってる場合じゃない。  この少年を説得できるか。ここ一番で、きっとわたしの運命は大きく変わる。父皇帝の背後から、わたしは口を開いた。 「確かに、その者は、わたくしの命を狙っていました。しかし、生かして捕らえねば、黒幕を暴く事もできません。貴方は、その程度の考えもできないのですか?」 「はい、できません」  うんそうだよねーここはすいませんって謝るよねー……って。  できないのかい!!!!!  予想外の反応にわたしが唖然と立ち尽くしていると、ナダは眉間に少し皺を寄せて、視線をわたしから外し、ぽつぽつと洩らした。 「俺は、この色のせいで、同胞にも蔑まれ、名も与えられず、ただ殺戮の道具として育てられました。俺の居場所は戦場しかありません。ただ、戦って殺せ、と。『お前は何も考えずに敵を殺せ』と、そう、言われ続けました」
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