第3章:君は居る、わたしはルーイ

5/6

123人が本棚に入れています
本棚に追加
/62ページ
 あっ、ははーん……。  段々わかってきたぞ。  ナダ、この子、「自我が無い」な?  まあ、黒髪黒瞳の中に銀髪赤瞳なんて生まれたら、まず異端児として遠ざけられるだろうし。でも、戦力としては役に立ちそうだから、殺戮兵器として戦場に送られた訳か。  そして帝国に来てからも、奴隷剣闘士として、生き残る為にひたすら人を殺し続けた。  そんな育ち方をしてたら、「自分で考えて行動する」なんて、できるはず無い。  この子は年齢こそアーリエルーヤ(わたし)と同じくらいだけど、中身はてんでお子ちゃま、というか、赤子同然なんだ。  そういう事情を鑑みもせず、「アーリエルーヤ」は、意志も無く、自分の為に戦って殺せ、って言っちゃったんだな。  そりゃあ、「女帝アーリエルーヤ」の為に戦って死ぬしかできなくなるよ。  でも、わたしはその「アーリエルーヤ」じゃない。  もっと、別の道をこの子に与えられるはず。  目を閉じ、数秒でめちゃくちゃ考える。  そしてわたしは、銀色の瞳をぎっと見開くと、父皇帝の脇をすり抜け、ナダの前に立った。 「お父様!」  さあ、大一番だ。間違えるなわたし。  皇帝を振り返って、ナダを指差す。 「わたくし、彼をわたくしの護衛騎士に召し抱えたく思いますわ」  皇帝が驚きで目を瞠る。ナダを見れば、何を言われているのかわからない、というのがありありとわかる、ぽかんとした顔をしている。 「彼の戦闘力は、しっかりと目の当たりにしました。この強さは、騎士となれば、大いにわたくしの身を守るのに役立つと思いますの!」 「お、おお」  やっと意識が現実に返ってきたかのように、皇帝がかくかく首を縦に振る。 「これだけ強い護衛が儂の天使ちゃんを守ってくれるなら、確かに、心強いの」  よし、第一段階クリア。  遅ればせながら駆けつけた騎士団が、暗殺者を縛り上げて連行する間に、わたしは再度ナダと向き合う。 「俺にはわかりません」  彼が、ゆるゆると首を横に振る。 「貴女の騎士になって、何をすれば良いのか」 「わたくしを守る為に立ち回りなさい。ただ殺すのではない方法を選んで」 「わかりません」 「これからは、自分で考えなさい。あまりにもまずかったら、わたくしが止めますから」  ちょっと突き放すようで悪いけど、そこはこれからスパルタ教育だ。 「自分で、考える」  ナダが赤い瞳を細めて、自分の胸に手を当てる。憂い顔もめちゃくちゃ綺麗だなオイ。  って、見とれてる場合じゃないない。 「貴方はもう『無銘』ではありません。わたくしが新たな名を与えましょう」  見てろ「アーリエルーヤ」。  これが、お前とわたしの違いだ。 「イル」
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!

123人が本棚に入れています
本棚に追加