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第4章:出たなフラグ確立魔!
「んまあああああ! アリエル様!」
おお、久々に聞いた気がするな。ヘメラのこの嘆き。
「次代皇帝ともあろうお方が、厨房で腕まくりして粉まみれになっているなんて!」
そう。わたしは今、城の厨房で、料理人達の注目をめっちゃ浴びながら、お菓子作りをしている。
執筆以外の「わたし」の、数少ない趣味だったんだよね、お菓子作り。そんなに上手くはないし、あまりやってると、
『またあんたはそうやって、勉強しないで遊んでばかり!!』
って、母親がキイキイ五月蝿いから、回数はこなせなかったんだけど。
まあ今はそんな毒親はおらん! わたしの好きにさせろや!!
「向こう」では文明の利器、オーブンレンジに頼っていた。だから今、目分量の上、焼き加減も時間と目測の戦いである事にはちょっと苦労した。
けど、窯からふんわり良い匂いが漂ってきているから、まあ、失敗していないだろう。
そう確信して、ミトンを手にまとい、ケーキ型を取り出す。
「おお……素晴らしい」
「これが『光吟士』のお力!」
わたしとできあがったシフォンケーキを囲んで、料理人達が口々に感動の賛美を贈ってくれるんだが、『光吟士』関係ないじゃろこれ。というか、わたしは『光吟士』じゃないですしー。
とは言えないので、腕を組んで、ふふん、と得意気に鼻を鳴らしてみせる。
「ああー……」
背後ではヘメラがさめざめと泣いている。いや、この乳母お得意の泣き真似だ。
「立派な淑女になられるようお育てしたのに。歴史あるドレスを覆した事に始まり、アリエル様はヘメラの想像を大股で超えてゆかれて、亡きお后様に顔向けができませんわ!」
……うーん。それ言われると弱いんだよなー。
フラグ回避の為とはいえ、ヘメラが真摯に面倒を見てくれた「アーリエルーヤ」が、期待からギュンとコースを逸れた育ち方しちゃったのは、ちょっと悪いと思ってる。
だけど、悪役女帝のままだったら、いちいち窘めてくるヘメラも、既に首を斬られてたんだよ。
『もう鬱陶しい』
「アーリエルーヤ」のその一言で、「ナダ」に。
ちょっと口うるさいけど、こんな人の好いおばちゃんを死なせたくないじゃん? 寝覚め悪いじゃん?
父皇帝も生きてるんだから、ヘメラにも生きてて欲しい。できるだけ周りの人を死なせずに、わたしも生き残りたい。
でも、まーだ、懸念があるんだよね。
アーリエルーヤの母親は、わたしと皇帝が和解して、後宮から出る事を許されたけど、それを拒んだ。そして今から数年前に病没している。
一度突き放した夫のもとへなんて戻りたくない気持ちはわかるが、アーリエルーヤが長じるまでに母親が死ぬ運命は避けられなかった。
それは、「アーリエルーヤ」の破滅フラグが、まだ残っている事を意味するのかもしれない。
ンアーもー。フラグは一つにまとめとけや!
……と愚痴っても仕方無いので、わたしは今日も今日とて、フラグ回避の仕込みに精を出す。
フラグがあるなら、まあ、あれやるしか無いでしょ。
好感度アップイベント。
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