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ルーイ様。
恐らくあの夢は、どこかの世界で本当にあった事なんでしょう。
貴女はその運命を変える為に、一人で戦ってきたんだ。いや、今も戦っている。
黒髪を金髪に変えた事も。
ヒールをへし折った事も。
皇帝陛下と仲睦まじくする事も。
俺を『ナダ』ではなく『イル』と名付けた事も。
全部全部、定められた貴女の破滅を回避する為の、戦いなんでしょう。
だから、貴女の周りをうろつくネズミを始末して、皇帝陛下だけに報告しました。
夢に見た悪魔と同じ顔をした男が現れた時、俺が始末しないといけないと思いました。
これ以上、貴女に苦労を背負わせない為に。
なのに、貴女は言うんだ。
「わたくしは、彼と話があります。今は退きなさい」
信用されていない訳ではないというのは、今はもうわかるようになりました。だけど、頭で理解しても、心が――そう、俺には無いと思っていた心が、納得しないんです。
離れていろと言われたけれど、俺は地獄耳だから、貴女と悪魔の会話を聞いてしまった。貴女が、「アーリエルーヤ」ではない名前を呼ばれたのも。貴女がここではないどこかから来たらしい事も。
全部、全部。聞こえてしまった。
ルーイ様。貴女はきっと、皇帝陛下の比喩ではなく、本当に天の御遣いなんでしょう。
そしてきっと、いつかは天に帰らないといけない。
帰らないでください、と。俺が生まれて初めて抱いた我儘は、迷惑ですか。
黒髪の貴女ではなく、金髪の貴女のままでいて欲しいと思うのは、罪ですか。
モルモットになった悪魔に、貴女は俺が守るべき人なのだと見せつける為、言い訳を繕って、貴女の手を握ったら、貴女は握り返してくれました。
本当に、自惚れても良いんですか。
生まれた時から親を不幸にした鬼子の俺が、未来を望むなんて、許されないのだろうけれど。
今だけは、俺は貴女の「イル」だと、貴女に「要る」と思われているのだと、信じさせてください。
どうか、お願いします。
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