第5章:聖女が国にやってくる

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『エルフォリアの迷宮』  それは、『セイクリッディアの花輪』クライマックスのステージ。まあ所謂(いわゆる)ラストダンジョンだ。  ニィニナが帝国軍を打ち破り、遂に皇城まで攻めのぼった時、「アーリエルーヤ」は城を捨て民を捨て、帝国の皇族墓地であるその迷宮に逃げ込んだ。  墓地なのに『迷宮』の名のごとく、中は盗掘者除けに、皇族以外を拒む意地の悪い仕掛けが満載。そして最奥には、初代皇帝が封じた悪魔と契約する祭壇『ソロモンの火壺』があるのだ。 「アーリエルーヤ」は自らを依代(よりしろ)にして、『ソロモンの火壺』からケージ以外の悪魔を()び出そうとしたが、その前にニィニナに倒された。そしてケージも敗れて、『ソロモンの火壺』は、聖剣の力で編んだ封印魔法『セイクリッディアの花輪』によって、永遠に閉ざされるのである。  それを。  なんで。  既にニィニナが知っている?  やばい。汗ダラッダラかいてる。流石にこめかみを伝うものを、皇帝は見届けたのだろう。 「アーリエルーヤ」  諭すような真面目口調で、わたしに告げた。 「やはり調子が悪いのであろう。今日はもう下がるが良い」 「……はい」  からからの喉からようやくそれだけを絞り出す。  ああー、やばいなこれ。どこかで見てるイルにも余計な心配かけてるかな。  何とか皇女の威厳は失わないように一礼して、身を翻す。 「ニィニナ殿」  謁見の間が遠ざかる中、皇帝が、ニィニナに向き直り、固い声音で言い渡すのが聞こえる。 「『エルフォリアの迷宮』は、我がリバスタリエル皇族にとって聖域。いくら選ばれし『聖女』と言えど、おいそれと立ち入りの許可を出す事はできぬ。更には皇族の同行が無ければ、死地も同然。この場で返事をする事が叶わぬと、お知りおきいただきたい」 「は……い。かしこまりました……」  良かった。父皇帝はやはり伊達に数十年大陸最大帝国の君主をしていない。選択を間違えない人だ。ただのチョロチョロな惚気おじさんじゃないぞ、偉い。  ニィニナの返事がどうにも歯切れが悪いのが、まだ諦めきっていないんだろうなと伝えてくるが、一体『エルフォリアの迷宮』で何をしたいんだろう。  何とか、二人きりで話して、真意を問いただす事はできないかな。 「まあまあ、アリエル様!」  寝室に戻ると、青い顔をしたヘメラに出迎えられた。 「具合がお悪いと聞きましたわよ。横になられます? 胃が受けつけるならお茶にいたします? それともお風呂でお身体を温められます?」  うーん。具合が悪いというか、むしろメンタルが大変よろしくないだけだから、布団に入ったら考え込んで余計に悩みが悪化しそうな気がするんだよね。  ……って。  あるじゃろが!  破滅フラグ回避の場所! ニィニナと別のフラグを立てる場所!! 「ヘメラ!」  わたしはつかみかからん勢いで、ヘメラに詰め寄り、叫んだ。 「お風呂へ行きます! それと、ニィニナ殿に伝言を!」
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