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はい、ここでおかしな点があります。指摘しなさい。完全正答十点。
なんで?
なんで女湯に居るのこの子が?
「イルーーーーーーーッ!!」
わたしは咄嗟に両腕で隠すべき場所を隠し、お風呂以外の理由で顔が火照っているのを自覚しながら、甲高い声を迸らせる。
「呼んでません! こんな所まで護衛しなくて良いです! 余所へ行きなさい!」
その言葉に、弾かれたようにイルがわたしの方へ振り向いた。
えっ? 振り向いた?
て事は、その赤い瞳に映してますよね? アーリエルーヤの。
そこまで思い至った途端。
イルの顔が耳まで真っ赤になったかと思うと。
「――すみませんっ!」
珍しく抑揚ありまくりのひっくり返った声で謝罪して、瞬時に湯煙の彼方へ消えた。
オイ。オイ。赤くなってたのあの子が? えっそれどういう風にとらえれば良いの? 年頃の女の子の裸なんて見慣れてないから? それとも、アーリエルーヤの裸だったから?
いやでも、わたしが叫んだ途端に現れたから、今までもずっと、お風呂の時もわたしに群がるネズミに目を光らせてたって事だよな? どれくらいの距離だったかはわからんけど、アーリエルーヤの入浴シーンをバッチリ見てたって事だよな!?
ええー、マジでござるかぁ?
イルが人並みの男の子の情緒を得てゆくのは、主君として嬉しいけれど。こっちも中身はおばちゃんとはいえ、一応身体は乙女なんですよ。ましてや好きな子に見られたとあらば、「もうお嫁に行けない!」って言いたくもなりますよ!?
ンアー、恥ずかしい恥ずかしい!
両手で顔を覆って、言葉にならない呻きをあげていると。
「あっ、あの、アーリエルーヤ様!」
ニィニナが、酷く緊張した様子で声をかけてきた。
「イル殿には吃驚してしまいましたが、改めて、お呼び立ていただき光栄ガフッ!」
あっ、また舌噛んだ。大丈夫かこの子。舌が人より長いか、歯が人より内側に生えているかでは?
「もっ、申し訳ございません……」
「いいえ。でももう少し落ち着きなさいね」
「はっ、はいい……」
本当に申し訳なさそうに萎縮する姿は、可愛いと言えば可愛い。ムッキムキだが。
とにかく、彼女から本音を引き出せるよう、裸のお付き合いで親睦を深めねばなるまい。
それはニィニナの方も一緒だったようで、血のにじんだくちびるを拭うと、「アーリエルーヤ様!」と腰に手を当て逞しい胸を張った。
「このニィニナめを信用してお招きくださったお礼に、是非お背中を流させてください!」
ヨッシャ計画通り!
わたしは心の中でガッツポーズを作ってみせる。ニィニナ、いいな。姿が変わっても、素直で良い子だな。それは『セイクリッディアの花輪』で書いたこの子のままである。
「嬉しいわ。お願いしましょうかしら」
本当は、「向こう」での習慣で、湯船へ浸かる前に既に身体は洗ったのだが、折角のニィニナとの友好フラグチャンスを逃す訳にはいかない。
ゆるりと微笑んで、タオルと石鹸を渡せば、ニィニナのごつい顔が、ぱああっと明るくなった。
うん、段々見慣れてきたこの顔。ハスキーなみゆゆ声も相まって、割とアリだ、これ。
椅子を二つ持ってきて、湯の近くに置く。わたしが前に、ニィニナが後ろに座る。
ニィニナは明らかに緊張しきった、ぎくしゃくした動きで、タオルを濡らし、石鹸を泡立てて、わたしの背中をこすり。
「イデエ!!!!!」
わたしはまた変な声を出してしまった。
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