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何て?
今、何て言った!?
わかってたって、全部!?
ざあっと頭から血の気が引くって、これなんだな。でも、貧血になってる場合じゃない。
「い、いつから……」
「大体最初からかの」
わたしがすごい情けない表情をするのに対し、皇帝は、この人本当に病気で倒れたんかってくらい楽しそうに笑いを洩らす。
「いや、お前が金髪になった時には、本当に光の精霊が『アーリエルーヤ』に宿る奇跡が起きたのかと思ったが。その後の性格の豹変ぶりから、あ、こりゃ別人だな、と」
バレてたー……。
知ってるはい知ってます、私の演技力、学芸会で木の役しかできなかったレベルー……。
「『アーリエルーヤ』は、会う度に、『いつかお前を殺す』という気満々の目で見てきたからな。儂を褒めて笑いかけてくれるなんて、お前は本当に、天神ウラノスが遣わせてくれた、天使なのだと思ったよ」
「アーリエルーヤ」、子供の頃からそんな殺意丸出しで父親と接してたのか。
というか、本当にバレてたんだなあ……。
「……わたし」
あー、何かもうどうでも良くなってきた。なら全部ぶっちゃけるか。
「親に嫌われてたんです。だから、『アーリエルーヤ』に対してでも、こんなにいっぱい親切にしてもらえるの、嬉しいけど、くすぐったくて。『アーリエルーヤ』がもらえるはずだった愛情を、わたしが奪っちゃって、申し訳なくて」
そう。本当は、皇帝のこの愛情は、「アーリエルーヤ」が受けるはずだった。わたしは、「わたし」として、母親にギャンギャン言われて、父親に無視されて。誰にも助けてもらえなくて。
それをひっくり返しちゃって、本当にこの人に申し訳が立たない。
はなをすすりあげながら告白すると。
「それは違うぞ」
皇帝がゆるゆると首を横に振った。
「お前の本当の親御さんの事を全部わかる訳ではないが、自分の子供を真実嫌いな親はおらんて。ただ、愛し方がわからなくて、迷っておったのじゃろ」
そして彼は天蓋を見上げて、「それに」と零す。
「儂も『アーリエルーヤ』にどう接したら良いかわからなかった。あれの母親が、不義を為すような女ではない事はわかっていたのに、黒髪のあの娘をどうしたら我が子として愛せるかわからなくてな。距離を取った結果、こじれにこじれて恨まれてしまった訳だ」
その辺は、お前の方が良くわかっておるんじゃろ? と続けられて、何も言い返せなくなる。
うわー……。本当に鋭いなこの人。伊達に皇帝じゃなかったわ。チョロいだけのおっさんと思っててすいませんでした。
「だからせめて、『アーリエルーヤ』にできなかった分まで、お前を幸せにしてやりたくてな」
皇帝の手が伸びてきて、わたしの頬を撫でる。壊れ物を扱うかのように、とても優しく。
母親には叩かれた事もあったのに、この人は、赤の他人のわたしを、本当に慈しんでくれる。
「願わくばどうか、儂の目が黒い内は、『アーリエルーヤ』でいてくれまいか。今まで通り、『お父様』と呼んでくれまいか」
ンアーもー。凄い殺し文句だよ。
さてはこの人、若い頃は美貌と口説きでかなりモテたな?
そんな事を考えつつも、わたしもいつの間にか、この人に絆されていた事を思い返す。
謝罪と抱擁。
ニワトリより元気なおはようの挨拶。
「天使ちゃん」の連呼。
いざという時は守ろうとしてくれる優しさ。
全部、全部。「アーリエルーヤ」じゃなくて、「わたし」に向けられたもの。
だから、わたしも精一杯の愛情を返そう。
「はい、お父様」
潤んだ瞳を瞬いて、小首を傾げてにっこり微笑めば、皇帝、いや、お父様は、満足そうに笑みを浮かべて。
「……ありがとうよ」
静かに目を閉じ。
眠るように。
「――お父様!?」
静寂が落ちた部屋に、わたしの叫びだけが、響き渡った。
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