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ちょっと待ったどうしてだ!?
「『物語に憑く悪魔』って、そんなに沢山いるの!?」
「そりゃー、オレ様ひとりでできるわきゃねーだろ。今、世界に溢れてる物語の数は、オレ達悪魔が総出で分担したって捌ききれねえ。そうやって、力の及ばなかった作品がエタるの、お前だってさんざん見てきただろ?」
たしかに。
「わたし」は所謂ネット小説もそれなりの数を読んできた。そこで、飽きたからなのか、ネタが続かなかったからなのか、気力が尽きたのか、それとも、作者に何かあったのか。ともあれ、色んな理由で完結しないまま放置される、「エターナる」作品を、星の数ほど見送った。
かくいうわたしも、『セイクリッディアの花輪』を完成させる前にエタった話は、それなりにある訳だが。
違う違う思考が逸れた。『物語に憑く悪魔』がケージ一匹じゃないって話だわ。
「本来は、オレ達はひとつの物語にひとり憑いて、領域侵犯しないのが常識だが、時々それを破る『掟知らず』がいてな。あれもかなり有名な『掟知らず』だよ」
「そんな迷惑な奴、あんた達で片付けられないの?」
「無理です」
わたしの当たり前と言えば当たり前の疑問に、ケージはいきなりモルモットに出来る限りの真顔で、何故か敬語ですっぱり言い切った。
が、すぐに疲労しきった顔になって、ぶるぶる首を横に振る。
「いくらオレ達がマルチーズ並とはいえ、マルチーズの間にも強さの階級があるんだよ。あいつはオレより高位の悪魔。真名も知らねえ。だから、なーんも手を出せねえんだ」
うわー……ケージ、意外と役に立たない。
というか、これで段々わかってきたぞ。
ケージが介入に失敗した事を知った、あのヒョロ男の悪魔が、今度は自分がこの物語に干渉しようと、入り込んできた。
そしてアーリエルーヤではなく、ニナと契約を結んで、アーリエルーヤの破滅フラグ建築を押し進めようとしている。
そんな裏事情は露も知らない純粋なニナは、とにかく悪魔を封じる方法を探して、ミナ・トリア国王に相談し、『エルフォリアの迷宮』を攻略すべしという情報を得たんだろう。それなら、ニナの言動の辻褄が合う。
ただ、そこで問題が生じる。
ケージさえ名前も知らない件の悪魔は、何故ニナが『エルフォリアの迷宮』に向かう事を止めないのか。全力で邪魔してきそうなものだけど、今は事態を静観しているように見えた。よっぽど、勝算でもあるんだろうか。
そして、もうひとつ。わたしは眠るお父様の横顔を見つめる。
『エルフォリアの迷宮』は、入ってしまえば皇族の血を持つ者がそばづいている限り、侵入者に牙をむく事は無い。
だけど、迷宮の扉を開けられるのは、その時代の皇帝、ただ一人なのだ。
『セイクリッディアの花輪』の「アーリエルーヤ」は、『聖女』を待ち受ける際、わざと扉の封印を解いておいた。絶対に負けないという自信の表れとして「わたし」が設定したんだけど、今、それが制約となって降りかかる。
今、お父様に無理をさせる訳にはいかない。
なら、誰が扉を開ける?
答えは、ひとつしか無いでしょう?
わたしはケージをひょいと手の上に乗せて、席を立つ。
そしてお父様の寝室を出て、扉を閉めて。
部屋の前で待機していた、侍医や兵士、皇帝護衛騎士団長やヘメラ。居合わせる面々を見渡す。きっとどこかからイルも見ている。
これだけ揃っていれば、わたしの言葉は正式な発言として通るだろう。目を瞑って、深呼吸を一回。そして、目を開ける。
「皇帝陛下とお話をしました」
わたしはこれから、過去最大の破滅フラグを自分から立てる。
だけど、負けを認めた訳じゃあない。
勝つ為に、自分から挑むんだ。
精一杯胸を張って。
「これ以上陛下にご負担をかけないよう、わたくしが、皇位を受け継ぐ事を、今、この場で宣言します」
開き直ってしまえば、声は、震えなかった。
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