第6章:自分からフラグに挑んでみせましょう

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 ちょっと待ったどうしてだ!? 「『物語に憑く悪魔』って、そんなに沢山いるの!?」 「そりゃー、オレ様ひとりでできるわきゃねーだろ。今、世界に溢れてる物語の数は、オレ達悪魔が総出で分担したって捌ききれねえ。そうやって、力の及ばなかった作品がエタるの、お前だってさんざん見てきただろ?」  たしかに。 「わたし」は所謂(いわゆる)ネット小説もそれなりの数を読んできた。そこで、飽きたからなのか、ネタが続かなかったからなのか、気力が尽きたのか、それとも、作者に何かあったのか。ともあれ、色んな理由で完結しないまま放置される、「エターナる」作品を、星の数ほど見送った。  かくいうわたしも、『セイクリッディアの花輪』を完成させる前にエタった話は、それなりにある訳だが。  違う違う思考が逸れた。『物語に憑く悪魔』がケージ一匹じゃないって話だわ。 「本来は、オレ達はひとつの物語にひとり憑いて、領域侵犯しないのが常識だが、時々それを破る『掟知らず』がいてな。あれもかなり有名な『掟知らず』だよ」 「そんな迷惑な奴、あんた達で片付けられないの?」 「無理です」  わたしの当たり前と言えば当たり前の疑問に、ケージはいきなりモルモットに出来る限りの真顔で、何故か敬語ですっぱり言い切った。  が、すぐに疲労しきった顔になって、ぶるぶる首を横に振る。 「いくらオレ達がマルチーズ並とはいえ、マルチーズの間にも強さの階級があるんだよ。あいつはオレより高位の悪魔。真名も知らねえ。だから、なーんも手を出せねえんだ」  うわー……ケージ、意外と役に立たない。  というか、これで段々わかってきたぞ。  ケージが介入に失敗した事を知った、あのヒョロ男の悪魔が、今度は自分がこの物語に干渉しようと、入り込んできた。  そしてアーリエルーヤ(わたし)ではなく、ニナと契約を結んで、アーリエルーヤの破滅フラグ建築を押し進めようとしている。  そんな裏事情は露も知らない純粋なニナは、とにかく悪魔を封じる方法を探して、ミナ・トリア国王に相談し、『エルフォリアの迷宮』を攻略すべしという情報を得たんだろう。それなら、ニナの言動の辻褄が合う。  ただ、そこで問題が生じる。  ケージさえ名前も知らない(くだん)の悪魔は、何故ニナが『エルフォリアの迷宮』に向かう事を止めないのか。全力で邪魔してきそうなものだけど、今は事態を静観しているように見えた。よっぽど、勝算でもあるんだろうか。  そして、もうひとつ。わたしは眠るお父様の横顔を見つめる。 『エルフォリアの迷宮』は、入ってしまえば皇族の血を持つ者がそばづいている限り、侵入者に牙をむく事は無い。  だけど、迷宮の扉を開けられるのは、その時代の皇帝、ただ一人なのだ。 『セイクリッディアの花輪』の「アーリエルーヤ」は、『聖女』を待ち受ける際、わざと扉の封印を解いておいた。絶対に負けないという自信の表れとして「わたし」が設定したんだけど、今、それが制約となって降りかかる。  今、お父様に無理をさせる訳にはいかない。  なら、誰が扉を開ける?  答えは、ひとつしか無いでしょう?  わたしはケージをひょいと手の上に乗せて、席を立つ。  そしてお父様の寝室を出て、扉を閉めて。  部屋の前で待機していた、侍医や兵士、皇帝護衛騎士団長やヘメラ。居合わせる面々を見渡す。きっとどこかからイルも見ている。  これだけ揃っていれば、わたしの言葉は正式な発言として通るだろう。目を瞑って、深呼吸を一回。そして、目を開ける。 「皇帝陛下とお話をしました」  わたしはこれから、過去最大の破滅フラグを自分から立てる。  だけど、負けを認めた訳じゃあない。  勝つ為に、自分から挑むんだ。  精一杯胸を張って。 「これ以上陛下にご負担をかけないよう、わたくしが、皇位を受け継ぐ事を、今、この場で宣言します」  開き直ってしまえば、声は、震えなかった。
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