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わたしの皇位継承宣言から後は、もう超高速で事を進めた。
とりあえず、お父様を休ませるのが最優先だからと、戴冠式や国民へのお披露目は後日にして、簡易的な譲位の式だけを行う段取りを立てる。
一眠りしてる間に退位する事になっているなんて寝耳に水で、お父様の心臓にはまた負担をかけただろうが、家臣達に囲まれ確認を受ける中、すいませんお願いしますとわたしが目で訴えると、
「おお、確かに儂がアーリエルーヤに頼んだぞ。そろそろこの娘に帝国を任せても良いだろうとな」
と即座に口裏を合わせてくれた。
お父様ありがとう。これからもっと親孝行します。こっち向いて、わたし以外の誰にも見えない角度でにやっと笑ってみせるの、格好良いですよ。
そんなこんなで、お父様の体調がそこそこ良い時に、皇城の奥で、選ばれた臣下と、『聖女』としてニナだけが居合わせる中、譲位式が行われた。
ケージが言っていた、『掟知らず』の悪魔は、感動のあまり過呼吸でぶっ倒れそうになっているニナの傍に居ない。身分が知れないから入れなかったのか。それとも、奴自身に何か思惑があるのか。それはわからない。
「お前が何か決意を固めたのはわかる。だが、くれぐれも無茶だけはせぬようにな」
戴冠式に使うものほど立派ではない冠を、私の金髪にかぶせる時、お父様は耳元でそう囁いてくれた。
「……大丈夫です」
わたしは不敵に笑って返してみせる。
大丈夫。わたしは「アーリエルーヤ」ではない。これまで数多のフラグを折ってきた。だから今度も、悪役女帝破滅フラグを全力で回避しようじゃないの!
式典が終わって、わたしのものになった皇帝の執務室へ戻る。
式典用の重たいマントを脱ぎ捨てて、どっかりと椅子に腰を下ろし、まっすぐ前を向いたまま、少し低い声で呼んだ。
「イル」
「はい」
秒速で飛雄くん声が返り、瞬時に現れたイルが執務机の前にひざまずいて頭を垂れる。
わたしはゆるりと立ち上がると、彼の傍らに立って見下ろした。
「皇帝として最初の命令を、貴方に下します」
これは片付けておかなくてはいけない危険要素だ。そしてきっとイルはもう、証拠も準備も揃えている。
「わたくしの命を狙っていた黒幕の名前を、今、ここで言いなさい」
イルの横顔がこわばるのがわかった。
やっぱり。
最後まで隠して、自分の手で始末をつけようとしていたな、この子。
でも、わたしはイルの主君。まして今やもう、東の大陸最大帝国の最高権力者。その命令に逆らう事は、死すら意味する。
イルの形良いくちびるが震えるのが見える。ああ、わたしの為に迷うなんて、高度な情緒も覚えたんだなあ。こんな時じゃなかったら、いいねいいねえって頭ナデナデしたいんだけど、今は威厳を保たないといけない。腰に手を当て、イルの返答を待つ。
やがて。
「黒幕は」
観念したか、イルが口を開いた。
「元側室の と、 領の 辺境伯です」
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