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何で一章分にできそうなこの話を先にしなかったのかって? 途中で思いついたから気づいたら入れられる場所通り過ぎてたのよ。もし書き直す事があったらちゃんと三章の前に挟むから、今は勘弁して欲しい。伏線ってのは後から突然生えたりするものなんだ。
『お前今、頭の中ですげーメタ説明してるだろ』
執務机の上に置いた籠の中で、ケージがアーモンドをかじりながら念話でツッコミを入れてくるが、気にしない。
わたしはイルを見下ろして、「次の命令です」ときっぱり言い切った。
「わたくしが『エルフォリアの迷宮』を攻略する間に、二人に罰を下してきなさい。だけど、殺すのではなく懲らしめる方法を、きちんと貴方の頭で考えて」
弾かれたように。
イルがこちらを見上げた。
赤い瞳に、物凄い不安が宿っている。
わかる、わかるよ。君が居ない間に、こっちはこっちで決着をつける、って言ってるんだから、心配してくれてるんだよね。
でも、これはわたしの戦いだ。そこに、もう「ナダ」ではない彼を巻き込みたくない。
「了承したなら、すぐにでも発ちなさい」
イルは、二度、三度、視線を逸らしていたが、やがて。
「……わかりました」
深々と頭を下げた。
その姿が、愛おしい。
ぎゅうって、抱き締めたい。
本当は守っていて欲しいって、ダダをこねたい。
でも、もうイルに頼っちゃダメなんだ。
最後の破滅フラグを折るには、イルを傍に置いていたらいけない。
「アーリエルーヤ」は悪魔の力を使って、傷ついた「ナダ」を何度も回復し、その末に壊した。人ではない化け物に、変えてしまったんだ。そして理性を失った「ナダ」は、『聖女』に倒されたのだ。
そんな、『セイクリッディアの花輪』と同じ状況は、全力で避けないといけない。
でも、もし。もしも。
全部が上手く片付いて、イルもわたしも生き残ったら。
言って、良いかな。
結婚しようって、最大の我儘発して、良いかな?
「ルーイ様」
イルはそこまで考えてないかも知れない。彼にとってわたしはあくまで仕えるべき主君で、人生の伴侶とか、そんな事、考えた事は無いのかも知れない。わたしの一方的な片想いで終わるかも知れない。
まあ、その時はその時だ。彼には自由を与えて、わたしはリバスタリエルの女帝として孤高に生きよう。
「ルーイ様」
ンアーでもでも、イルが他の女の子とくっつくとこは、やっぱり見たくないな。結婚式に呼ばれたりしたらどうしよう。笑顔で祝福できる気全くしないわ。
「ルーイ様」
「ハイヨッシャイ!?」
気づいたらイルが立ち上がってめちゃくちゃ至近距離から声をかけてきたので、また変な返事をしてしまった。
ちょっとちょっと。美少年が近い近い。意外と睫毛が長いところまで見えるぞ。赤い虹彩にわたしの驚き顔が映ってるの見えるぞ。
わたしがおろおろしている間に、イルが両手でわたしの頬を包み込む。
そして、更に顔が近づいて。
十数秒、時間が、止まった。
「……すみません。行ってきます」
言いながらイルが顔を遠ざけ、両手を離す。そして、わたしに向かって一礼すると、またどこかへ一瞬で消えた。
後には、呆然とするわたしと、かりかり無心にアーモンドをかじって現実逃避するケージが残った。
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