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数日後。
わたしは皇帝への謁見を申し出た。
正直、アーリエルーヤはめちゃくちゃ疎まれているから、はね除けられるんじゃないかと思ったんだけど、割とあっさり通った。
「アリエル様、ほんとーうのほんとーうに大丈夫ですの?」
心配顔で訊いてくるヘメラに、わたしはやんわりと微笑みかける。
「大丈夫よ、ヘメラ。絶対に」
謁見の為に、皇女らしいドレスに着替える。うん、資料本で読んでいた以上に動きづらいな、これ。一種の拷問では?
改善の余地を考えながら、リバスタリエル皇城内を歩いて、謁見の間へと辿り着く。
扉の両脇を守る衛兵が、わたしを見てぎょっとした顔を見せた。
けど、そこは流石プロの兵士と言うべきか。すぐさま真顔を取り戻して高らかに声を張り上げる。
「リバスタリエル帝国第一皇女、アーリエルーヤ様! 第五十七代皇帝、光吟士グランドル・バル・リバスタリエル陛下を御拝謁!」
光吟士の守護精霊である光の精霊が彫刻された、扉が両側に開く。
わたしは凜と顔を上げ、自信たっぷりに謁見の間へ踏み込む。
途端。
謁見の間にいた人々が、ざわめいた。
騎士達も、家臣団も。側室達も。
アーリエルーヤを見て、驚きの囁きを交わしている。
唯一人黙っているのは、玉座に収まる皇帝。彼だけが、沈黙を保って、だけど目は驚きに見開いて、わたしを見ている。
「御機嫌よう、お父様」
わたしは精一杯の笑みを顔に乗せ、胸に手を当てて頭を下げる。
その視界の端で流れる髪は、金。
そう。
アーリエルーヤの髪は今、黒ではなく、光吟士に相応しい金色に変わっていたのだ。
「……アーリエルーヤ」
精一杯の平静を装っているけれど、確実に震えている皇帝の声が、鼓膜を叩く。
訊かれる前に、わたしは先手を打った。
「お喜びください、お父様。わたくしは、光吟士としての力を手に入れました。お父様と同じこの髪が、何よりの証拠です」
皇帝の目は更に真ん丸くなり、どよめきが増す。
まあ、早い話、仕込んだんですが!
着色料がある文化なら、脱色剤もあるじゃろと、医師にヘメラを遣わせて手に入れた薬。
この世界に、『そんな風に使う』という認識が全く無かったのが幸いだった。
晴れてアーリエルーヤの漆黒の髪は、きらっきらの黄金へと変化したのである。
脱色効果を知らない人間から見たら、それこそ奇跡だろう。
「……本当に」
皇帝が玉座を立ち、よろよろと階を降りてくる。
「光吟士の力に目覚めたのか」
「はい」
神妙に頷けば、壮年男性の逞しい腕が伸びてきて、すっぽりとわたしを包み込む。
「……すまなかった、アーリエルーヤ」
わたしにしか聞こえない声量で、謝罪が降ってくる。
「お前を、お前の母を疑い続けた、儂を許しておくれ」
「許すも何も」
わたしはふるふると首を横に振り、七歳の少女にできる限り腕を伸ばして、父親の身体を抱き締め返す。
「わたくしは最初からお父様の娘ですもの。いつかはきっと、お父様を安心させられると信じておりましたわ」
謁見の間は、今度はしんと静まり返っていた。
いつもアーリエルーヤを嘲笑していた側室達も、「光吟士の目覚め」に、口を閉ざすしか無くなってしまったのだ。
「アーリエルーヤ、今度共に遠乗りに行こう。そこでゆっくり話し合おうではないか。父娘水入らずでな」
「はい、お父様」
我が創作物ながら物凄い勢いの手のひら返しだな皇帝! と思うけど、まず第一の破滅フラグは回避できただろう。ありがとうわたしの知識。
ただこれな。
副作用でめっちゃ痒いんだ。
掻きたい! 頭掻きむしりたい!
かっゆうー!!
表向きは父娘の感動の絆を見せつけながら、わたしの頭の中では、超音速で「かゆい」が駆け巡っているのであった。
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