第7章:物語はわたしが紡ぐ

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 かくして、『ソロモンの火壺』に至る正式な道を見失い、ケージもどこかに落っことしてきてしまったわたしは、足まで痛めて、ニナに背負われながら先へ進む事を余儀無くされている。  いや、本当に進んでいるのかもわからない。  とにかく奥へ行けば良いんじゃないかって予感のもとに、ニナに余計な物だけは触らないように言い含めながら道を指差しているけれど。  ほとんど当てずっぽうじゃい!  なーんで『セイクリッディアの花輪』で、せめて正規ルートを描いておかなかったかな、「わたし」!? 「ナダ」や「アーリエルーヤ」、そして悪魔(ケージ)との決戦を盛り上げるのに字数を費やしすぎて、迷宮の構造描写なんてすっぽ抜けてたわ! 「……アリエルお姉様」  頼もしい背中とは裏腹に、不安たっぷりのニナの声が、耳に届く。 「もし、このまま、私に憑く悪魔を倒せなかったら……」  あー。  そんな気はしてたけど、もしかして、ニナ、かーなーり、自信無い子か? いや、人の事は言えないけどね。  まあ、ついこないだまで普通の村娘だったのに、いきなり「貴女は聖女です! 世界を救ってください!」なんて言われて、文字通り重たい聖剣なんて託されたら、よほど強メンタルじゃない限り、無理だって思うわな。  だからわたしは。 「おやめなさい」  敢えて厳しい語調で言い含める。 「最悪の事態を考えて動く、というのは慎重派という美徳ではあるけれど、時機を逃しかねない短所にもなり得るのですよ。もっと前向きな事を考えなさい」  そう言いつつ、前向きな事ってなんだろなって、わたしも考え込んでしまう。  ンアーえーとえーと、あっそうだ。 「例えば、貴女は『聖女』の役目を終えたら、何をしたいの?」  ぴた、っと。ニナが足を止めた。  そしてぐりんと凄い勢いで振り返り、 「彼氏が欲しいです!!」  きらきら輝く笑顔で言い切る。 「ミナ・トリアで私に接する人達は皆、私を『聖女』として丁重に扱ってくれたけれど、一人の女の子としては見てくれませんでした。私はこんな見た目だけれど、きちんと『私』という個人を見て、対等に接してくれる人と、幸せな家庭を築きたいです!」 「おっ、はっ、はい」  おお、舌噛まずにちゃんと最後まで言えたし、意外と素朴な願望だな。でもわかる、わかるぞ。  わたしもイルに、「アーリエルーヤ」じゃなくて、「わたし」を見て欲しい。仕える主君だからじゃなくて、一人の恋する女の子としてのわたしを好きになって欲しい。  恋したい乙女と恋する乙女。  わたしたちが組んでるんだから、実質最強では? 「では、その夢を叶える為にも、迷宮の最奥まで辿り着かないといけませんわね」 「はっ、はい、お姉様! 頑張りガフッ!」  あっやっぱり舌噛んだ。さっきのはまぐれか?  ともあれ、ニナの本音を聞けて、嬉しい気持ちになっているわたしがいるのも確かである。  この道が、様々なフラグをへし折ったり立てたりして、全部全部、良い方向へ向かう事を願って。  わたし達は、更に奥へと進む。
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