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気がついたら、まっしろな世界を歩いていた。
どこまでも、どこまでもまっしろで、何にも無い。
あっ、これ、とうとう死んだかわたし?
『セイクリッディアの花輪』の物語を終えて、悪役女帝破滅フラグを回避しきって、お役御免になっちゃったか。
「……そう、かあ」
ぽつりと呟く声も、白い虚空に溶けてゆくだけ。聞き届けてくれる人は、誰も居ない。
死後の世界って、こんなにも静かで、こんなにも孤独なもんなんだなあ。
もう少し、「ようこそ天国へ!」くらい熱烈歓迎があるかと思ったもんなんだが。それとも、「アーリエルーヤ」に転生したわたしは、世界の摂理に逆らった罰として、永遠にこの孤独な空間を彷徨い続けるんだろうか。
寂しい、な。
もう、誰にも会えない。顔を見られない。声も聞けない。
あー、やだな。後悔なんて、「向こう」からこっちに来た時には全然無かったのに、今、すっごい未練がましい。
もっと生きたい。
お父様に親孝行するって決めたんだ。
ヘメラにもそろそろ楽をさせてあげたいって思ってたんだ。
皇城の人達とも結構仲良くなってきたし。
ニナとシンの幸せを見届けたいし。
ケージも段々愛着湧いてきたんだぞ。
そして。
イルに、言いたい。
好きだよって。
これからも傍にいて欲しいよって。
国を発つ時のあれの続き、しても良いのは君だけだよって。
ぱたぱたぱた、っと。白い地面に水滴が落ちる。
こんな所に雨なんて降るんだろうか。一瞬不思議に思って頭上を見上げたわたしの頬を、伝い落ちるものがある。
あ。あーそうか。そういう事ですか。
気づいてしまうと、もう流れるものは止まらなかった。その場に屈み込んで、子供みたいにしゃくりあげる。
と。
誰もいない、何も無いはずのわたしの頭上に影が差して。
「何、情けない姿をしているの。『烈光の女帝』が」
物凄く聞き覚えのある声が、わたしの耳に届く。
えっ。あっ。ハイ?
まさかこれって?
逸る心臓に静まれと言い聞かせながら顔を上げれば。
もう十一年見ていなかった、「わたし」が。
腰に手を当て、眉をつり上げて、わたしを見下ろしていた。
でも、眼鏡をかけて、長い髪をひとつにしか結えない、冴えない「わたし」じゃない。化粧ばっちり、髪も染めて巻いて、めちゃくちゃできるOLみたいな服装に身を包んでいる。
これはもしや。恐る恐る、名を呼んでみる。
「……『アーリエルーヤ』?」
それを肯定するかのように。
「わたし」が、ニヤッと笑んでみせた。
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