第7章:物語はわたしが紡ぐ

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 気がついたら、まっしろな世界を歩いていた。  どこまでも、どこまでもまっしろで、何にも無い。  あっ、これ、とうとう死んだかわたし? 『セイクリッディアの花輪』の物語を終えて、悪役女帝破滅フラグを回避しきって、お役御免になっちゃったか。 「……そう、かあ」  ぽつりと呟く声も、白い虚空に溶けてゆくだけ。聞き届けてくれる人は、誰も居ない。  死後の世界って、こんなにも静かで、こんなにも孤独なもんなんだなあ。  もう少し、「ようこそ天国へ!」くらい熱烈歓迎があるかと思ったもんなんだが。それとも、「アーリエルーヤ」に転生したわたしは、世界の摂理に逆らった罰として、永遠にこの孤独な空間を彷徨い続けるんだろうか。  寂しい、な。  もう、誰にも会えない。顔を見られない。声も聞けない。  あー、やだな。後悔なんて、「向こう」からこっちに来た時には全然無かったのに、今、すっごい未練がましい。  もっと生きたい。  お父様に親孝行するって決めたんだ。  ヘメラにもそろそろ楽をさせてあげたいって思ってたんだ。  皇城の人達とも結構仲良くなってきたし。  ニナとシンの幸せを見届けたいし。  ケージも段々愛着湧いてきたんだぞ。  そして。  イルに、言いたい。  好きだよって。  これからも傍にいて欲しいよって。  国を発つ時のあれの続き、しても良いのは君だけだよって。  ぱたぱたぱた、っと。白い地面に水滴が落ちる。  こんな所に雨なんて降るんだろうか。一瞬不思議に思って頭上を見上げたわたしの頬を、伝い落ちるものがある。  あ。あーそうか。そういう事ですか。  気づいてしまうと、もう流れるものは止まらなかった。その場に屈み込んで、子供みたいにしゃくりあげる。  と。  誰もいない、何も無いはずのわたしの頭上に影が差して。 「何、情けない姿をしているの。『烈光の女帝』が」  物凄く聞き覚えのある声が、わたしの耳に届く。  えっ。あっ。ハイ?  まさかこれって?  逸る心臓に静まれと言い聞かせながら顔を上げれば。  もう十一年見ていなかった、「わたし」が。  腰に手を当て、眉をつり上げて、わたしを見下ろしていた。  でも、眼鏡をかけて、長い髪をひとつにしか結えない、冴えない「わたし」じゃない。化粧ばっちり、髪も染めて巻いて、めちゃくちゃできるOLみたいな服装に身を包んでいる。  これはもしや。恐る恐る、名を呼んでみる。 「……『アーリエルーヤ』?」  それを肯定するかのように。 「わたし」が、ニヤッと笑んでみせた。
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