第7章:物語はわたしが紡ぐ

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「……様、ルーイ様!」  イルの呼びかける声で、わたしの意識はゆるゆると現実に戻ってきた。  重たい目蓋を持ち上げれば、美少年の顔を今にも泣きそうに歪めて、わたしを覗き込んでいるイルが居る。彼の腕に抱かれているのだと気づけば、完全に覚醒した。  起き上がろうと床に手をつき、冷たい石の感覚ではなく、何か柔らかい小さな物の集まりである事に気づいて、視線を下ろす。そして「ヒョエッハイ!?」とまた変な声をあげてしまった。  一面の、色とりどりの、花びら。  唖然とするわたしの頭から、ぽとりとずり落ちた何かに目をやれば、同じく様々な色で編まれた、花輪。 『セイクリッディアの花輪』 「わたし」が描写した、聖剣の魔法によって編まれた物と、全く同じだ。 「あああああ! アリエルお姉様! お姉様!!」  ニナが涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして、わたしを抱き締める。やばいやばい。締まってます締まってます。骨折れる。 「聖剣の魔法が間に合って良かったです! 私、やっとお姉様の役に立てガッ!」  あっ、この舌噛みも段々可愛く見えてきたな。  そう、「わたし」が書いた『セイクリッディアの花輪』の効果は、花輪をかぶせた者の魂を操るというもの。悪しき魂を封じる事も。逆に、この世を離れゆく魂を呼び戻す事も。どちらもできる。 「わたし」は前者を書いたが、ニナは今回、後者を使ってくれたようだ。  って、やっぱりわたし、死にかけてたんじゃん!  ぎっとケージの方を向けば、奴は腕組みして壁にもたれかかり、ニヤニヤしながらこっちを見ている。  くそー……。こいつはまた籠にぶち込んで、しばらくアーモンド抜きだ。がっつりお父様に餌付けされてろ。 「と、とにかく」  イルを目で呼んで、ニナの腕力を引き剥がしてもらい、すっかり花びらまみれになったスカートを翻しながら、わたしは不敵な笑いと共に宣言する。 「東の大陸(エス・レシャ)を脅かす『悪魔』は、『聖女』によって浄化されました。胸を張って帰りましょう」  イルが頷き、ニナはすっかり諦めモードのシンの首をつかんで掲げてみせて、ケージは満足そうに笑うと、モルモットの姿に戻る。  そして、花びらの床に一歩を踏み出そうとしたわたしは。 「あれっ?」  突然力が抜け。ぐらり、と傾いで視界が斜めになった。  倒れる寸前に、イルが支えてくれる。 『そりゃおめーよー、死にかけて戻ってきたんだ。体力ゼロに決まってるだろ、無理すんな』  肩に乗ったケージが、きしししし、と殴りたくなるような笑いを念話(テレパシー)で送ってくる。 『今は任せとけよ、お前の騎士様によ』  その台詞が終わるが早いか、わたしの身体がふわっと浮いた。  何事かと思えば、イルにお姫様抱っこをされる形になっている。  ちょっと待ってちょっと待って。免疫無いんですけど! 「お、下ろしてください、イル! 重たいでしょう」 「大丈夫です」  じたばた暴れると、それをおさえこむかのように、イルが腕に込める力を強くした。 「とても軽いです。羽のように」  ニナが「ああ、麗しき主従愛ハウッ!」とまた心臓が止まりそうになりつつ、シンは虚無の顔で、ケージはニヤニヤ笑いながらわたし達を見守っていた。
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