第7章:物語はわたしが紡ぐ

11/11
前へ
/62ページ
次へ
 ウワッ。  断られる可能性は覚悟決めてなかった訳じゃないけど、いざ言われるとめちゃくちゃダメージでかいな。じんわり目が濡れると。 「すいません。違う、そうじゃない。凄く嬉しいけど、そうじゃないんです。俺は言葉足らずだから、すみません」  イルがぶるぶる首を横に振って、剣だこのある指で、そっと、わたしのまなじりを拭ってくれる。 「ただ、貴女にその言葉を言ってもらえるなら、俺が特別だと言うのなら、『アーリエルーヤ』ではなく、『貴女』の本当の話し方で、言って欲しいんです」  ……あれっ?  イルにもバレてた?  というか、嬉しいって言ってくれたって事は、これは両片想いってやつだったのか? いつから?  まあ、根掘り葉掘り訊くのは、全部片付いてからにしよう。深呼吸して、じっと彼の瞳を見つめる。 「イル、あのね」  あー、この子にこの話し方するの、初めてだな。余計に緊張するわ。 「これからもっともっと大変だと思うけど、一生わたしの傍に居て、助けてくれる?」  途端。イルが凄く嬉しそうに笑顔を弾けさせた。多分、犬耳がついてたら嬉しさのあまりピョコーンって立つやつだこれ。 「……はい、  様」  イルの大きくて冷たい手が、わたしの手を包み込み、「わたし」の名前を囁く。  というか、えっ? 「わたし」の本名まで知ってるの? 「あ、ちょっと待って」  わたしはもう「わたし」じゃない。アーリエルーヤだ。それははっきりさせておこう。 「その名前は、『アーリエルーヤ』にあげてきたの。だから、これからも『ルーイ』って呼んで。二人きりの時は、『様』もつけなくて良いから」  イルがまた目を見開いた後、心底から幸せそうに微笑んでくれる。  二年前、コロシアムで出会った時は、本当に感情も自我も無くて顔と声だけ良くて、どうなる事やらと思ったけれど、すごく良い子に育ってくれたなあ。嬉しいなあ。 「わかりました、ルーイ」  とても大事な物を押し戴くかのように、わたしの手の甲にイルのくちびるが触れる。 「俺は今までの人生で、今、一番幸せです。この命の限り、貴女を守り通します」  ヤバい。わたしも今一番幸せだよ。  これからも色々あるだろうけれど、二人ならきっと乗り越えてゆける。そう信じてる。 『セイクリッディアの花輪』は完結した。だけど、わたしの人生は、まだまだこれからも続いてゆく。  その先の物語は、わたしが紡ぐんだ。  イルと一緒に。
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!

125人が本棚に入れています
本棚に追加