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「死……死ぬ……死にます……」
「なーにをおっしゃっているのですか、アリエル様! 人間はこの程度で死ぬほどやわに生まれてはおりませんことよ!」
生まれたての子鹿のようにへろへろしているわたしの背中を、ヘメラがばしんと勢い良く叩く。やめてやめて。まじ死ぬ。死ななくても、倒れる。
迎えたアーリエルーヤの誕生日。息が詰まるような下着で腰をぎうぎう締められて、布を使い過ぎて重たい白のドレスを着せられる。あれか。平安時代の十二単ってめちゃくちゃ重いって聞いた事あるけど、そんなかんじか。
そしてとどめに、足元。十センチはあるんじゃないかっていう高いヒールの靴を履かされて、めっちゃ足がぷるぷるしている。立てない。立てないじゃろこれ! バランスが取れないだろ!
『やあだー! そんなぺたんこの靴を結婚式に履いてきたのー? 常識って考えた事あるー?』
わたしが「わたし」だった頃、花嫁よりケバケバしい格好をしてお前の方が常識的にどうなんだ、という相手に嘲笑われた事を思い出す。
いや、忘れろわたし。今はそれどころではない。
わたしはこれから、皇帝陛下主催の皇女誕生パーティで、初めて正式に貴族達の前に出る。社交界デビューってやつですね。
はいそこ。社交界デビューは十六歳頃からだろうって? リアリティ警察はお引き取りください。この東の大陸ではそうだって、「わたし」が決めたんだ!
しかし、噂には聞いていたというか、資料で読んではいたし、書いたのは「わたし」だけど。昔のなんちゃってヨーロッパな国のドレス、半端無いです。これで背筋を伸ばして歩けって方が無理だわ。
でも、泣き言は言っていられない。
ここでパーティに出られませんなんて言ったら、せっかく回避した、父親との確執フラグがまた立ってしまう危険性がある。
まあ、金髪になったあの日からの皇帝のデレっぷりを見る限り、その可能性は果てしなく低い。
『んもう、仕方無いな儂の天使ちゃんは~! じゃあ延期するかの~!』
今の皇帝なら、それくらいの言動をやらかしてくれるという、謎の信頼感が芽生えているが、やはり危険の芽は慎重に、しかし潔く引っこ抜いておきたい。
明日は筋肉痛。
それを覚悟して、出来る限り背筋を正す。広がったスカートの裾を軽くつまんで、しずしずと歩み出す。
別にお姫様気取りじゃあないんですよ。本当にこの速度でしか歩けないんだわ。
そんなこんなで、普通の靴なら三分もあれば行ける城内の距離を、たっぷり十五分はかけただろうか。パーティ会場である大広間の扉前に辿り着く。
「アーリエルーヤ皇女殿下の、おなりである!!」
衛兵が高らかに声を張り上げると、大きな扉が開かれる。
さあ、これからが、アーリエルーヤが『悪役女帝』になる道を全力で回避する道程の、本番だ!
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