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プロローグ
じわり、と。
青い衣に紅の華が咲いた。
銀の剣に貫かれた胸から、刃を伝って、ぽたり、ぽたり、と命の証が流れ落ちてゆく。
「……これで勝ったと思うなよ」
女の顔を覆っていた仮面が床へと滑り落ち、甲高い音を立てて砕け散る。その下から覗く、半分は目を奪われる程美しく、半分は焼けただれた顔が、憎々しげに歪んだ。
「悪魔の契約は簡単に終わるものではない。お前を呪い、お前の国を呪い、そして世界の全てを呪ってみせようぞ」
「そんな事はさせません」
女の胸を貫いた体勢のまま、水色の髪の少女は、凜とした声を張り上げる。
「わたしは全ての元凶である悪魔を討ち、この世界に恒久の平和をもたらしてみせましょう。悪である、貴女を討ったように」
銀色の瞳が瞠られ、そして、嘲るように細められる。
「やってみせるが良いわ」
負け惜しみを最後の科白にして。
刃が引き抜かれて、更に赤を撒き散らしながら、女はゆっくりと仰向けに倒れてゆく。
世界を乱した悪の女帝が抱いた野望は、勇気ある少女の手によって、終焉を迎えたのであった。
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