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困ったなぁ。
自分で言うのもなんだけど、ぼくはウソをつくのがすごくヘタなんだ。それになにより、胸の奥がちくりと痛むじゃないか。(みんなが平気そうにしているのが、不思議でならない。)
でも、人間の従者がいないと、試験を受ける資格すらもらえないし。試験を受けられなければ、もちろん不合格。魔王中学校には進めなくて、ずっと六年生のまま……。
それはもっと困る。
ぼくは何度もため息をつきながら、人間界の上空をぐるぐる旋回した。
飛ぶのにはなかなか体力を使う。ずっと飛んでいるわけにもいかないから、人目をさけて、地面におりた。
まずは、悪魔ってバレないように、翼としっぽとひたいのツノをしまう。
人間の小学生にうまく化けて、声をかけるんだ。
とりあえず最初のあいさつは、
「はじめまして、ぼくサタン!」
で行こうと決めた。元気に、明るくのほうが、印象がいいと思うから。
頭のなかで、いくつかのパターンをシュミレーションしてみる。
「はじめまして、ぼくサタン! 今ヒマ? だったらいっしょにデビルズマウンテンに行こう!」
「はじめまして、ぼくサタン! キミ、ゲームとかすき? デビルズマウンテンはゲームのなかの世界みたいなところだよ!」
「はじめまして、ぼくサタン! デビルズマウンテンの頂上で友だち百人といっしょに食べるおにぎりは、きっとおいしいよ!」
「はじめまして、ぼくサタン! アヤシイ者じゃないから安心して? 大丈夫、ただの悪魔だよ!」
うん、これならウソは言ってないし。なんとかいけそう。ちょっと気持ちが軽くなった。
考えているうちに、人間界の小学校がみえてきた。
声をかけるのは、なるべくヒマそうな人がいい。
いなくなっても問題なさそうで、ぼくと同い年ぐらいで、体格も同じぐらいで、悪魔に対する理解があって、頭が良くて運動もできて、勇気と思いやりをかねそなえていて、人助けをしたくてうずうずしている人……。
そんな好条件のそろった人が、いるかどうかはわからないけど。
校門からはちょうど、決まったかたちのカバンを背負った子どもたちが出てくるところだった。どうやら下校時刻のようだ。(それにしてもあのカバン、邪魔そうだなぁ。ほら、悪魔は背中に翼が生えてるからさ。持ち物は魔術で小さくして、ポケットに入れてるんだ。)
って、そんなことより。
ぼくはひとの波に向かって、目をこらす。
従者にするのに都合の良さそうな子どもがいないかなって……。
ほとんどの子どもが、二人から数人で連れ立って歩いている。
声かけづらいなぁ。
でもなんだかみんな、笑顔で和気あいあいとしていて、楽しそう。
ちょっとうらやましく思いながら見つめていたら、逆ににらみ返された。
ああっ、すみません! 遠慮なくじろじろ見るなんて、失礼でしたね!
あわてて目をそらした先で、ついに見つけた。
ひとりで、足早に校門から出ていく、男の子のすがたを。背中には黒いカバン。ぼくより身長は少し高いけど、きっと同い年ぐらいだろう。
深呼吸して、ぼくは正面から男の子に近づいていった。目が合った瞬間、精一杯の勇気を出して口を開く。
「はじめまして。ぼく――」
「なんだ悪魔か。わるいけどおれ今いそがしいんだ。ゲームにも興味ないし腹も減ってないから」
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