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デビルズ・プロローグ sideサタン
「さて。今年もいよいよ、卒業試験のシーズンがやってきたのである」
威厳たっぷりに、よく通る声で先生は言った。
それから黒板に、
【第5808回 魔界小学校 卒業試験】
と書いた。
そう。今日からぼくたち六年生は、卒業試験に挑むことになっているのだ。
「まずは人間の眷属――つまり、ともに試練に臨む【従者】をひとりえらぶことからはじまる。ベルゼブブ、従者を連れて行くのは、なぜだかわかるな?」
先生の問いに、ベルゼブブくんがメガネをくいっと直して答える。
「はいっ。人間をイケニエとすることで、ぼくたち悪魔は真の姿へと変身できるからです!」
先生は満足そうにうなずいた。
「そのとおり。最終課題は、われわれ悪魔が真の姿にならなければ突破できないものなのである。そして悪魔が真の姿になるには、人間の従者のイケニエが、必要不可欠なのであるぞ」
……うーん。
それってつまり、人間さんに、「イケニエになるために、ぼくといっしょにデビルズマウンテンに登ってください」って、お願いしなきゃいけないってことだよね。
困ったなぁ。
だってぼく、悪魔的なコミュニケーションがニガテだからさ。
悪魔的なコミュニケーションっていうのはたとえば、「言うこと聞かないと呪っちゃうぞ!」みたいなやつのこと。
なんかむりやりしたがわせてるみたいで、イヤなんだよねぇ……。
「サタン。おい、サタン。聞いてるのか!」
先生からの注意が飛んできた。
いけねっ。
ぼくは自分が、机に肘をついて、窓の外をながめながら、もの思いにふけっていたことに気がつく。
「は、はいっ」
「成績最下位のおまえも、この試験はきちんと受けなければいけないのであるぞ。毎年、六年生は全員、小学校卒業、そして中学校への進学のために、試験を行っているのであるからな」
ぎろりとにらんでくる先生。
「あ、あのはいっ、がんばりますっ」
あわててこたえると、
「せいぜいがんばりなさいな、ヘタレくん」
クスクスと、となりの席で小さな笑い声がした。
毛先がクルクルときれいにカールした金髪を、ツインテールにむすんでいる女の子。ひたいには立派な二本のツノ。口もとに手をあてて上品に笑っている。この子の名前はリリスちゃん。
「そんなようすじゃ、デビルズマウンテンにたどりつく前にリタイアでしょーけどね」
うっ……。
図星。かもしれない。
くやしくて、ぼくはくちびるをかんだ。だけどなにも言い返せなかった。リリスちゃんは成績優秀で、ぼくなんかが言いあらそって勝てる相手じゃないんだ。
「諸君はこの六年間、魔界小学校で学んだことを活かして、精一杯がんばるように、なのである。それでは解散。健闘をいのるのであーる!」
先生の説明が終わった。いよいよ、試験開始。
「さーてと、アタシはテキトーに従者をみつけて、さっさと試練を終わらせようかしら!」
意気揚々と立ち上がるリリスちゃん。ぼくは思わずたずねた。
「ね、ねぇ、リリスちゃんは、人間にどうやって説明するの? イケニエになってほしいなんて、ぼく言いにくくて……」
だってイケニエになった人間は、それまでの記憶をすべて失ってしまうって聞いたよ。そんなのかわいそうじゃないか。
するとリリスちゃんは、
「バカかアンタは」
と、ぼくに冷たい目を向けて言い放った。
「正直にネタばらししてどーすんのよ! イケニエなんて、だれもなりたいわけないじゃない」
「えっ、それじゃあ……」
「もちろん、だまして連れてくるのよ! 「お礼においしいパフェをおごるから」とか、「なんでもねがいごとひとつかなえてあげる」とかテキトーにウソついてさぁ」
夢見るようにそう言うと、リリスちゃんはにやりと口元に笑みを浮かべた。
はぁ……やっぱりそういうかんじなんだね。
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