呪いの行方

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 引っ叩いた威力は大したことなかったがケガと貧血と飢えにより少年は気を失い、仕方ないので意識が戻るまでは傍にいた。と言っても川から水を汲んで少年の顔にぶっかけただけだ。むせながら起きた少年はハオランを睨む。その目つきはリュウホそっくりだ、腹が立つ。 「助けたわけじゃないって言ってたけど、結局助けてくれたんじゃん」 「結果としてお前が勝手に助かっただけだろ。俺は不幸を他人のせいにするだけで何もしない連中が嫌いなだけだ」 「おじ……お兄さん異国の人か。この国が貧しいのもチョウ国の従属なのも本当だ」 「貧しいのは王の治世がド下手くそだから、雨が降らないのはそういう天気だから、チョウ国に従属してても戦はチョウ国がやってくれてお前らは守ってもらってるだろ、税が高いのは国を維持するには金がいるせいだ。呪いのせいなんかじゃない」  だいたい国全体を不幸にする呪いなんてかけていない。国を守るため、豊かにするために戦っていたというのに国を不幸にするわけがない、本末転倒だ。  リュウホに近づいた人間だけが不幸になるよう微調整を重ね試行錯誤した自慢の呪いだというのに、とわけのわからない矜持があっただけだ。……とは、当然言えないが。 「で、お前は何故道術を学びたい」 「俺をこんな目に合わせる奴全員ぶっとばすためだ」 「阿呆め、そんなの殴る蹴るで十分だ。命を削りかねない修行が必要な術をそんなことに使うな、バーカバーカ」 「……ガキかよ、おじさん馬鹿だろ」  べし! と怪我をしていない部分を叩けばいってえとつぶやく。 「命を賭けて習得するなら命をかけるくらい大切な事に使う方がいいに決まってる。身を護るのなんざいくらでもやりようがあるんだから頭を使え」 「わかんねえよ、俺勉強した事ねえし」  したことがない、というよりできる環境ではない。勉学をする場も師もこの貧しい村にはいないし、少年は周囲から蔑まれていて学ぶ機会がない。 「命をかけるくらい大切な事なんてないよ。親父もおふくろも死んじまったし、別に誰か大切な人がいるわけでもない。リュウホの子孫なせいで」 「呪われてるからか」 「違う」  その言葉は強かった。少年を見れば怒りに満ちた顔だ。しかし今にも泣きそうな顔でもある。 「友達を裏切って自分の手で殺した大馬鹿野郎の血を引いてる事が許せないんだ!」 「……それが国を救うためだと思ったんだろ」  リュウホと語り合った日々。民を苦しめる王を討ち取り国の為に生涯を捧げようと誓った。しかしハオランの戦い方は時に味方を見捨て、敵を皆殺しにし、人が多く死んだ。こんなことがしたかったんだろうかと悩む日々が続き、眠れなくなり、周囲に当たり散らしどんどん冷たい人間になっていったと思う。  幼いころリュウホと語り合った。正義をもって、義を尽くし、弱きものの為に戦おうと。正義とは何かがわからなくなっていった。人を殺すことが正義なのだろうか。悩み苦しみ続けた。 「二人で頑張れば良かったじゃないか! 殺すことで救ったりしないで、二人で!」  少年は泣きながら懐からボロボロの本を取り出し広げて見せた。その部分を見てハオランは目を見開く。  書かれていたのはリュウホの苦悩と悲しみだ。変わって行ってしまうハオランを救う事も力になる事も出来ない。このままでは彼は呪詛の塊となってしまう、永遠に闇に落ちてしまう。この国はいずれ負ける、チョウ国には勝てないのは明らかだ。しかし戦いをやめることができない。 「二人なら正も義も貫けるのに、一人になったりするから! だから何もできなくなって自害なんてするんだ!」 自害、の言葉にハオランは日記の最後の項を開く。 『もう何をすればいいのかわからない。お前がいたら、ごちゃごちゃ考えないで前むいて走れって言ってくれたな。ハオラン、お前に会いたい』
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