呪いの行方

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 ごぼり、と口から大量の血を吐いた。  心臓を貫かれた。何故、という思いしかない。  男は剣術が国で一番強い。例え眠っていても気配を感じて起きられるくらい強かった。誰にも負けない、剣術も道士としての腕も一流だ。己を傷つけられるものなどいるはずもない、そう思っていた。  男の心臓を貫いたのは、心から信頼した友だった。同じ村に住んでいた家族以上に大切な存在。この力を使って国を救おうと近い切磋琢磨した。  男は強い、誰にも負けない。油断するのはこの世でただ一人友と呼ぶ存在の前だけだ。  彼に表情はない。ただ静かに男を見つめていた。 「お前の戦いは民をいたずらに殺し苦しめるだけだ、これ以上血を流すのをただ黙って見ていることはできない」 「……き、さま」  まさか、彼が裏切るなんて夢にも思わなかった。二人で国を救おうと誓い、同じ釜の飯を食い、どんなに辛い時も共に在ったというのに。 「許せとは言わない。俺を恨んでいい」 「ああ……そう、させて、もらう」  男は最後の力を振り絞って彼を睨む。心臓を貫かれてなお生き続ける執念は道士としての力も大きいが、裏切られたことへの怒りと憎しみが大きかった。 「お望み、どおり……呪ってやろう……近づ、けば……不幸に、なる、よう」  ごぼごぼと血を吐き、それでもゲラゲラと笑って見せる。 「お前の、子供も、し、そんも、みんなみんなみんなみんな! 呪ってやる! 死に絶えるまで!!」  そう叫ぶと男はその場に倒れた。しかしすぐに魂が肉体から離れ、祓われてしまわないよう空に向かい飛び立つ。その魂はどす黒く染まっていた。今男の魂は呪いの塊となって世に放たれた。  肉体を失った男は呪詛を完成させた。かつて友だった者への報復を、己の知っているあらゆる知識を使い最高の呪いをかけた。彼に近づいた者は不幸になる。彼は一生周囲から蔑まれ一人で生きなければいけない。  呪いの炎を絶やさないよう蝋燭に鬼火を灯した。この火が消えた時が男の血筋すべてが呪いによって死に絶えた時だ。いつ消えるだろうと暗い笑みを浮かべ男は力を蓄える為故郷の森へと隠れた。まずは魂が具現化して肉体を作り出せるようにならなければ。
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