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ふう、とチョウ国からの通達文書を読み終わりため息をついた。
あれからいくつもの戦があり、この国とチョウ国の強さの天秤が傾き、チョウ国から和平交渉をしてきたのは一昨日の事だ。いくつもの戦で功績を上げ、今では十万の兵から成る一軍を率いる青年は齢二十五だ。あまりにも若い軍師は若者の兵から絶大な支持をされている。剣も戦略も道術もすべてが目を見張る実力だからだ。
青年は名をリュウホと名乗り、正式な血筋だと公言している。リュウホの過ちを国に貢献することで晴らすためと言っているが、本当はあの人に活躍を知ってもらうためだ。名を聞けばアイツかと思ってもらえると信じて。
チョウ国との戦いを制するのは苦労したがようやくここまで来た。戦いの中でもあの人の行方を捜したが手がかり一つない。もう国内にはいないのだろうかと、チョウ国との和平交渉の為にチョウ国に行ったら探してみようかとその準備をしているところだ。すでにチョウ国の反乱軍と手を組み今根回しをしている。
呪いを解く方法はなんとなく目星がついた、本当に効くかどうかはわからないが。まだまだ道士としての修行も続けなければと強く誓う。術で探そうにもパッとした結果が出ない。おそらく道士の実力があちらの方が上で弾かれてしまうのだろう。初めて会ったときに見た山火事のような鬼火、あんな強さに匹敵する者は今この国にはいない。自分など足元にも及んでないだろう。
「見てみてリュウホ、これ綺麗でしょ!」
軍の副将の女性が嬉しそうに見せたのは美しい装飾がされた蝋燭だ。見事だな、と思って見ていたが蝋燭を触って固まる。
わずかに感じるこの術の型式、これは。
「これどこで手に入れた」
「え? ほら、昔アンタの住んでた村があった所。たまたま通りかかったら蝋燭職人がいて無理言って売ってもらったの」
無言のまま立ち上がると、力任せに卓を殴りつけた。バギャ! とすごい音を立てて真っ二つになる。
「ふぁっ!? どどどど、どうしたの!?」
「あああああもう!」
何でそんな所にいて何やってんだあの人は、と。リュウホを名乗って国外にまで捜索に行こうかと思っていた思惑や準備や苦労が一気に弾け怒りが頂点に達する。
着ていた鎧を乱暴に脱ぎ捨て軽装になると剣と金と食料を引っ掴み、バアンと凄い音を立てて窓を開ける。
「リュウホ!?」
「ちょっと出かけてくる! ひと月くらい帰らないからてきとうにいろいろやっとけ!」
「はあ!? 無理言わないでよ! チョウ国との交渉はアンタいないとできないでしょ!」
「知らん! チョウ国にナマこいたらブチ殺すぞって言っとけ!」
叫ぶや否や、リュウホは三階の窓から飛びおりる。そして近くの木に降り立つと猿のように木から木へ、目にもとまらぬ速さで駆けて行ってしまった。残された兵士や部下たちはぽかんとし、数秒後全員悲鳴を上げた。交渉まであと三日、どうしろと、と叫ぶ。
ボロボロで今にも崩れそうな小屋。それはかつて一人の少年が住んでいた場所だ。村は貧しさのあまり人は散り散りになり、今ここには誰も住んでいない。丁度良かった、近づいた者は不幸になる呪いがかかっているのだから一人が丁度いい。ただし友の日記を読み、己も過去を振り返り、いろいろと考えて物思いにふけった結果、ものっすごく人恋しくなってしまったのは誤算だったが。
誰もいないのを良い事に大声でぼやく。
「別に、寂しくねえし。もともと友達一人しかいなかったし。あ、いや、あんな奴友達じゃねえし」
バッターン! と激しい音と共に扉が開き、ついでに建付けが悪かったので扉はそのまま壊れる。そこに立っていたのはかつての友にそっくりな青年。その顔は怒りと悲しみに満ちている。
覚えがある、その顔。あれはリュウホに渾身の駄洒落を言った時、深い深いため息とともにされた顔だ。
「何でわかり切った意地張ってんだよ、アンタ本っ当に馬鹿だな!?」
「んだとゴルァ! もっぺん言ってみろやクソガキ!!」
END
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