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[その3 よりによって母親]
「なんだろう、急に……とんでもなく暑くなったよねえ」
「ええ、とっても。まあもう初夏ともなればそんなもんじゃない?今までがむしろ涼しかったんじゃな……い……?」
初夏の校門前。厚着と薄着を間違えるというのはエンゼルにとって致命的であった。少しふらつき、バランスを崩す。
「え、ちょっと大丈夫?今日は休みにしようよ」
「大丈夫だから。日陰に着きさえすれば、こんなの……!」
アイリアに支えられながら、立とうとするエンゼル。脱水症状で無理をするのは良くない。とにかく校舎内に入ろうと、足を動かそうとしたその時。
「大丈夫!?お母さん来たわよぉ!」
突然現れたのは、恐るべき母親アリエルだった。
「ちょっと、なんで母さんが急に飛び出して……」
「あの〜、アリエル先生?」
エンゼルだけでなくアイリアまでこのポカンであるが、お構いなしにまくし立てる。
「運んであげるからじっとして。抱っこ、おんぶ、どっち?飲み物もたくさんあるから。何でも言って。何でもしてあげるわよぉ!」
本当になんでもしそうな勢いで心配してくる。なんなら既に抱っこしている。体が勝手に、お姫様抱っこしている。どうしてこうも、エンゼルの神経を逆撫でするようなことをするのか。
恥ずかしさを主としたもろもろの感情がエンゼルに襲いかかる。
「何でもしてくれるんなら、離れてぇ!恥ずかしい!ほらスリスリしてくんじゃねえ親バカがァ!もう帰るっ!帰るーーっ!!」
結局、猛スピードで走って帰っていった。
「ねえ、アイリアさん。エンゼル、すごく元気そうじゃない」
「これはその……あれですよ。火事場の馬鹿力ってやつじゃないですかね」
「私は火事場なのねぇ……」
その日、アイリアが帰った時には、死ぬほど強いクーラーの中でエンゼルが寝ていたようだ。
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