1人が本棚に入れています
本棚に追加
[その6 いきなりの父親]
ある日、エンゼルのもとに1本の電話が。知らない番号なのだが、なんとなく出ることにした。
「はい、もしもし」
『ああ、出てくれたか。よしよし』
エンゼルの消したい過去の象徴、父親のミヒャエルだった。
相手に見えていないのは分かっているが、エンゼルは露骨に嫌そうな顔をしてみせる。この二人は和解は成立したが、それでもやはり生理的な部分に嫌悪感があるらしく、エンゼルは相変わらず父親のことが嫌いだ。
それゆえに、電話番号も教えていない……はずなのだが、的確にエンゼルの携帯電話にかけている。
「父さんに電話番号、教えた覚えないんだけど。なんで知ってんのよ、えぇ?」
『そう焦るなよ。母さんがあっさり教えてくれたんだ、親子仲改善のための取り組みとして協力してくれるそうだ』
「余計なお世話よ、もう……なんであんなんで教員とかやってられるんだか、あのバカ親」
『バカ親ではない。親バカというものだよ。私達夫婦はな、二人してそういった点でメチャクチャ不器用なのだよ』
自覚があるんならさっさと直せや、と大声を出したくもなったが、多分この父親はどうにもならないし、母親はもっとどうにもならない。出たのは諦めのため息だけ。
「……で、何の用?」
『よく聞いてくれた。それなんだがな、ちょっと夏休み中に帰ってきて私の研究の手伝いを……』
当然のように、エンゼルは即座に電話を切る。これはさすがにミヒャエルが悪い。エンゼルがそんな誘いに即座に乗ってくれるほど親孝行者だと思っていたのか。
ミヒャエルは今一度、物事のダンドリというものを理解したほうがいいと思われる。
最初のコメントを投稿しよう!