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プロローグ
アトリエ兼自宅。
父親からもらったその古びたのラジオは常にニュースにチャンネルを合わせてある。定刻になり、キャスターの割れた声が流れ出した。
「続いてのニュースです。本日未明、帝国大学院教授のレイニーガン・パトリス氏が自宅で死亡した事が関係者からの通報で明らかになりました。
パトリス女史は人工知能開発の分野で博士号を取得し、その技術は国立美術館の入場審査や帝国軍基地のセキュリティーシステムに採用されるほか、発展途上国の水源探索ロボットなど幅広く社会貢献し、その功績から女史には今年の名誉科学部門賞が贈与される予定でした。
女史は幼くして両親を亡くし、親類はなく、葬儀は女史と共同研究に携わっていたヴィンツェンツ・イルシュテルダム氏が中心となって執り行われる予定です。葬儀の日程はー」
「…」
ニュースを聞きながら窓を見る。正確には、窓の外を。
風が音を立てて窓を揺らした。
ニュースは件の女史の経歴を読み上げ、そして生前のスピーチ音声を流している。
「人工知能技術は、私の開発したシステムが体現している通り人間より普遍です。人間のように疲労や病気、ホルモンバランス等によって体調を崩すこともなく、機嫌も損ねません。24時間同じ制度を保つことができます。故障や破損が生じなければ、などと言う無粋なケースは置いておいて。
安定した能力で、安定したサイクルを繰り返す。人工知能によって作られる社会は現在よりも普遍的で平等な世界でしょうね。」
撫でられるような艶を帯びた肉声。
その声で彼女は彼女の創りたかった社会を語っていたが、キャスターの声に切り替わった。
「ー女史の開発したシステムは今後も継続して施設運用されます。ご冥福を申し上げます。」
その日、世界中のメディアはその女の不法を報じた。
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