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空気が唸るのをリンネは聞き逃さなかった。リンネの生身の右腕に熱く痛みが走った。
反射的に体を反らしていなかったら、右腕が宙を舞っていただろう。
「は?…ちょっと、何…これ!」
アンジェラの狼狽した声がする。
まさしく腕一本伸ばした距離。
アンジェラの人間の手がリンネの首を掴んでいた。
「っ…」
(腕、折られた…)
首を掴まれたまま、リンネは右腕から飛び出してしまった骨を自覚する。
少し遅れて、アンジェラの前足で右腕を折られたのだと解った。
「このっ…離しなさいよ!」
焦るアンジェラの声を無視して、彼の手はリンネの細い首をギリギリと締め上げる。
(さっきの仕返しかな…、やられた方法でやり返すなんて…いやらし…い。)
リンネの目の前が赤く、黒く点滅する。
「リンネっ!リンネ!お願い逃げて!」
「……」
「リンネ!これはアタシじゃない…、アタシに!貴女を殺させないで!」
遠く聞こえる悲痛な声と、点滅する視界の中でアンジェラの泣き出しそうな顔が見えた。
(そうだね、これは……アンジーじゃない。)
リンネは一瞬迷った。儀式的に自分が躊躇してることを自覚する。
そして、その感情に蓋をした。
例えばそれは、恐ろしいものから子供の視界を手で優しく覆って閉ざすように。
そして、決意する。
(…聞き届けた。)
静かに沈むように、リンネは応えた。
次の瞬間、リンネは首を視点に両足を振り上げ、アンジェラの腕に絡ませ、自身の体を思いっきり仰け反った。あり得ない動きをしたかと思うと、緩んだ手から逃れる。
「あはっ!無駄なのにガンバるわね、アンジェラ!」
アンジェラの口が、再び不快な声を紡ぐ。
しかし、軽口は続かなかった。
開いた二つの口に、クナイがそれぞれ刺さり、アンジェラの顎を、殴られたような衝撃が襲う。
「へ、何で…?両腕潰してンのよ?」
呟いてる間に一本、アンジェラの右肩にクナイが突き刺さった。
正確に神経を射抜いたクナイのせいで、アンジェラの右腕は力なくだらりと下がる。
視界の端に、人の体がこんなに曲がるのかと思うほど、身を屈めたリンネは、腰の忍ばせたクナイを口で引き抜いていた。
咥えたクナイを再び身体を躍動させて放つ。
クナイはアンジェラの左肩に突き刺さり、左腕もだらりと下がる。
「…両腕が使えないくらいで、私が使えないと思わないでほしい。」
リンネは毅然と言い切った。
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