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「ふーん。じゃあ、アンジェラを殺しても良いのね?」
ぐぐぐ、と前足を人間の部分の頭上に掲げながら、アンジェラの口は笑いながら言う。
「貴女が、アンジェラを使えなくしたんだもの、そのせいでアンジェラが死んでも良いのね?!」
リンネは答えない。暗闇の中に潜み、その目はアンジェラを冷たい目で見ている。
「貴女のせいで、アンジェラが死んでも良いのね?!」
アンジェラの口が残酷な言葉を吐き続け、言い終わらない内にリンネはダクトに向かって跳躍し、姿も気配も眩ませた。
「……行っちゃた。」
それまでのけたたましさが嘘のように、寂しげに呟く。
「存外、ちゃんと冷徹なのね…リンネちゃん。」
「……」
暗い空間で、アンジェラは目を覚ました。
暗い、が現実のオイレンではない。
青を帯びた緑の発光を捉えたからだ。データが連なり、巨大な空間すべてに気が遠くなるような数字が羅列している。
パンパン、と乾いた拍手が耳を打つ。
アンジェラがビクリと視線を向けると、案の定、白い女がいた。その白さが、ハイネックの白衣と、彼女自信が白く発光していて全身真っ白に見えたのだとようやく気づく。
「目覚ましにちょうどいい素敵な友情劇だったわ!」
「ゲスが…」
上機嫌な女に対して、アンジェラは苦々しく悪態を付く。
「それにしてもクノイチって凄いわね。実物は初めて見たわ。リンネちゃん自身も素敵ね。貴方を助けたいのに、貴方の身体を追い詰めて…健気な友情だわ!」
観覧したミュージカルが素晴らしいものだったかを熱弁するような様子に、アンジェラはイライラした。
「黙りなさいよ、あんたみたいな心無い人間に語られるなんて…どんな良いものだって陳腐に聞こえるわ。」
アンジェラが睨み付けると、女はきょとんとしていきなり笑いだした。
「いやぁね!アンジェラってば誤解してるわ。私が血も涙もないサイコパスにでも見えるかしら?」
女は可笑しそうに身体を震わせる。
「ふふふ、昔から誤解されやすいのよ、私。」
一頻り笑うと、女は息を吐いた。
「心無くなんてない。ちゃんと理解してるわ。貴方達がどうやって感動したり喜ぶのか。どうやったら傷付くのかもね。」
「……そう言うとこよ。」
アンジェラは舌打ちでもしそうな顔だったが、女は構わず続けた。
「貴方たち、私も持っている心と言うものは、とても素晴らしいものだと思っているのよ。実にあやふやで、時に人を惑わせて翻弄するくせに、私たちは誰一人としてそれを手放しては生きていけないのだから。」
両手を広げ、女はいつの間にか演説のように語り出す。
「本当に面白くて素晴らしいことよ。」
陶酔したような目で女は言う。尊いものを想うかのように。
そして、満面の笑みを含んだ顔でアンジェラを見ながら言うのだ。
「これだから人間は辞められないわ。」
「あんた…自分が人間のつもりなの?」
アンジェラのツッコミに、女は更に笑った。
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