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研究棟長室。
立派な文机と応接セットのある広々とした部屋の中、日向・アルタティマーナはむすっとしていた。
扉は開かないし、電話も通じない。何度か試したが、電話はうんともすんとも音がしない。
窓があるので薄暗いが、視界は確保できていた。
「誰も報告に来ないし…皆こんな様子なのか?」
誰に言うでもなく、呟く。
「何なんだいったい…」
狼狽はしていないが、かと言って楽しめるほど楽観できなかった。
(いっそ扉を爆発させてやろうかな…)
簡易的だが爆弾くらいなら調合できそうだ。
なぜ実験室ではない執務室で爆弾が作れるのかを突き詰める五月蝿い輩はいない。
「…リンネ、居るか?」
これも何度かの試みだ。
自分の命をかつて狙って侵入してきた暗殺者のクノイチの一人だったリンネを、自分が部下として採用した。
経緯は破天荒な物で、暗殺に失敗して自害しようとしたので、死ぬのは勿体無いから自分のもとで知識を役立てろ、とヘッドハンティングしたのだ。
以来、自分のためにダクトを使って施設内を縦横無尽に移動して資料運搬や書類の逓送をしてくれたり、実験の助手をしたりと手伝ってくれている。
そのリンネが、15分も帰ってこない。
そんなに長い間不在と言うことは、現状把握のために走り回ってると言う事だろう。
(扉を開けてくれようとしてるのかと思ったが、そんな様子ないし…)
日向はどうするか考え、椅子に座り直した。
カタン。
ダクトから物音がして、リンネが下りてきた。
「戻ったか。どうなってるんだ……って、」
リンネの姿を見るなり、日向はぎょっとした。
左腕はなくなり、右腕からは骨が飛び出し、血が滴っている。
「ごめんなさい、日向さん。義手、壊されちゃったの。あと、止血が甘くて…床を汚してしまう。」
「言ってる場合か!とにかく止血だ!」
服とハンカチを裂いて、傷口を縛った。
「骨の整復は医療部門のやつに診てもらおう。」
「うん。」
日向はリンネを応接セットの長椅子に座らせる。
「リンネ、話せるか?辛いだろうが、何があったか教えてほしい。」
「…うん。」
リンネはクノイチの頃に受けた拷問の後遺症で言葉を文章化することが苦手だ。妙にたどたどしい口調も、その後遺症に起因する。
それでも、起こった事、体験した事、アンジェラの得た情報を日向にすべて伝えた。
「ヴィンツェンツに合流する必要があるな…。」
話を聞き終えた日向は呟いた。
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