第二話

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「デルスニクの事を、デルニックって言ってた。」 リンネの言葉に、日向が反応した。 「デルニック?何でそこの名前を間違うんだ?仮にも権限を奪おうって言うシステムの名前だぞ。奪取したいのがシステム権限だったとして、肝の部分と言えば肝の部分なのに。少し間抜けすぎないか?」 「…研究棟長、"デルニック"はデルスニクの初期モデル時代の名前です。」 ヴィンツェンツが答えた。 「デルニックは現在、国立美術館の入場審査や搬入時・展示中のセキュリティーとして、また軍事施設のセキュリティーシステムに採用されています。此処までは一般向けにも公開されている情報です。しかし、デルニックは高いハッキングの性能に特化しており、軍用のサイバー兵器としても採用されています。詳細は省きますが、それこそ、他国の発射直前のミサイルをシステムダウンさせて止めることができる。 今のデルスニクは初期モデルよりセキュリティーとシステムの管理機能に重きをおいてバージョンアップしてあります。」 ヴィンツェンツは滑らかな口調で言う。 「…ん?ってことは、敵はオイレンのシステム管理AIが初期モデルのデルニックだと思ってるってことか?」 「いえ。もしデルニックだと思って対策しているのなら、バージョンアップしてるデルスニクの攻略は難しいでしょう。 オイレンはもともと、システム管理を導入する際にデルニックを導入する予定でした。ですが、軍用目的で作られていたので機能面で不要な部分やデータ要領の面等で不足している部分があり、より複雑化する必要があったのです。それに既に採用されているデルニックを使っては、セキュリティーレベルに問題があり、何よりも…」 ヴィンツェンツは流れるような口調が淀み、口許に手を当てた。口許が僅かに歪むのをエーアトベーレンは見逃さなかった。 確かに一瞬、ヴィンツェンツは笑ったのだ。 エーアトベーレンだけがそれを見て、密かに驚く。 「気品がない、と…デルニックの開発者によってオイレン用にバージョンアップが施されたのです。」 日向とリンネのポーカーフェイスな顔を保ったまま、ヴィンツェンツは説明を終えた。 「では、オイレンのその内情を知っている者が?」 普段見たことのない主の様子に、エーアトベーレンが困惑を飲み込みながら問う。 「…ただ知っているだけで、こんな芸当はできない。」 おい、と日向がヴィンツェンツを睨む。 「ヴィンツェンツ、回りくどいぞ。犯人に心当たりがあるんだろ。」 場の空気が張り詰め、エーアトベーレンはヴィンツェンツを見やる。普段のヴィンツェンツなら、こんな場を乱すような態度はけして取らない。 (坊…どうしたのだ、坊らしくもない…。)
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