第二話

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普段と違う主人の雰囲気にエーアトベーレンは動揺する。 「研究棟長…、もしかすると敵は本当に幽霊かもしれません。」 「は?何言ってるんだ。解るように言え。」 抽象的な言葉で結論を濁すヴィンツェンツに日向は苛立つ。 「落ち着いて下さい。私も推論とは言え、あくまでも論理的に述べたいのです。ですが、根拠があまりに弱すぎて私の空想の域を出ない。」 「わかった。じゃあその可能性を提示しろ。」 「…。今回の犯人は、レイニーガン・パトリス博士である可能性があります。 デルスニクの開発者は、レイニーガン・パトリス博士です。彼女は天才と言われたシステムエンジニアであり、優秀なプログラマーでもありました。AIは彼女の手掛けたソフトウェアの真骨頂です。」 ヴィンツェンツが出した名前を、日向は自らの記憶に探す。 「レイニーガン?……いや、だが博士は…。」 しかし、日向が辿れるその女の最後の記憶は、雨の日の墓地となっている。 「そう、貴女が研究棟長となった時に彼女は既に亡くなっています。」 ヴィンツェンツは言い切る。 レイニーガンは先述の通りシステムエンジニアの分野で素晴らしい才能を開花させた人物だ。 しかし、彼女は亡くなったのだ。 ヴィンツェンツ・イルシュテルダムと言う医療に精通した学問を操る錬金術師と神射 烏傲と言う患者を直すことにとことん貪欲な医者狂いの盟友があったにも関わらず。 オイレンのシステム管理を担うAIデルスニクと言う遺産を残し、逝去した。 死因は予兆のない心臓麻痺だった。 「勿論、幽霊だとは思っていません。たかだか幽霊ごときにこんな芸当はできないでしょう。だが、レイニーガン博士が関連してると考えると符合する点が多いのも事実です。まず、デルスニクを掌握できるハッキング能力、オイレンのシステム管理AIデルスニクの初期モデルの名称を知っている事、そしてアンジェラにも所縁がある。アンジェラは私が創る際に、生前のレイニーガン博士の人格をモデルにして創った合成生物です。 こじつけにも聞こえるかも知れませんが…(レイン)は博士が親しい者に呼ばせていた愛称と言う点でも一致します。」
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