第一話

1/13
前へ
/28ページ
次へ

第一話

デルスニクは無数のモニターを見ている。 それはイメージだ。本来は0と1の数字の羅列。しかし、人間により近い存在たれと設定された彼には情報を分析し、検閲し、振り分ける行程で情報を認識するにはイメージ利用する方が情報として圧縮されるので処理が簡単になる。 よって、帝政科学研究棟(オイレン)の無数の監視カメラに異常がないかをチェックするならモニターを同時再生させておけばよかった。 ただし、膨大なデータ処理はひっきりなしだ。 職員の入場認証、メール、研究データの保存、空調、はては普段使用しないような防災システムに至るまで。AIであるデルスニクが管理している。 「よーし、異常なしっと。」 そう言ったデルスニクは首を握り締められた。 白く細い、女の手。 デルスニクが存在するのは無論データ空間だ。物理的な手がデルスニクを捉えられる筈がない。そこに手が現れて、事実首を絞めた。 直ぐ様、防衛システムが作動し、異常を攻撃する。 データ空間に質量を持って現れることができる者などまともな筈がない。自分と同じくAIだったとしても、それが存在することはエラーだ。 オイレンの電子系統は彼一人が運用しているのだから。ハッカーかクラッカーか。いずれにしても 異常であることは間違いないのだ。 (こっちをハッキングしてるなら、逆ハッキングをかけて…!) デルスニクは目の前の異常をハッキングして、分解しようとする。 しかし、白い手が阻む。 触れられたデルスニクの手は分解されて跡形もなくなった。 「ーダメじゃないの、"デルニック"。逆ハッキングは危ないから、するなら予防しなきゃ。」 艶やかな女の声。白い髪が風に踊るように揺れている。 「な…!」 驚愕するデルスニクの前で形の良い唇が亀裂のような笑みを浮かべた。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加