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きっかけは停電だった。
一行に復旧しない緊急事態に、オイレンの中は混乱した。
その中で、リンネ・マキは配管工用のダクトを使って移動していた。
(侵入者…なら、アンジーがすぐに気付く…。)
アンジー、とは友人のアンジェラ=檻姫だ。
アンジェラは人造の合成生物だが、リンネを気にかけてくれる心優しい友人だ。
そのアンジェラは、オイレンの搬入口付近に居る。搬入口は外部との導線のため得てして侵入経路として狙われやすい。
アンジェラはそこにいて、番犬の役割をして居るのだ。
「アンジー…!」
すぐにアンジェラの部屋に近いダクトから廊下に降り立ち、リンネは呼び掛けた。
アンジェラは一点を見詰めて動かない。
肩を落とし、微動だにしない。
「…。…リンネ?」
リンネが数歩近付くとアンジェラは声を発した。
「凄いわね、何処からかは知らないけど、この暗闇を走ってきたの?」
リンネは足を止めた。
「…うん、クノイチだったから、夜目が効くの。」
「だとしても凄い事じゃない。」
「…何が起こってるの?」
「ごめんなさい、ついぼーっとしちゃって」
「ねぇ、何が起きてるの?」
暗闇のなかを巨大な肉塊が蠢く。
衝撃が、リンネの身体を襲った。
瞬く間もなく、巨大な鉤爪がリンネの身体を壁に押し付けていた。
「アンジェラの記憶を覗いてたら時間掛かっちゃって。やっぱり寝起きは処理が多いから起動が遅くってダメねえ。ごめんなさい。」
全くそう思っていないのか、やけに饒舌にアンジェラは言う。
「…質問に、答えて。」
バキン、とリンネの左の義腕に突き刺さったアンジェラの鉤爪が音を立てる。
「何が起こってるの。アンジェラはどこ?」
リンネはミシミシと悲鳴を上げる骨の音を聞きながら絞り出す。
「貴方、何なの?」
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