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(すり抜ける予備動作が解らなかったわ。)
ふむ、と思案する。アンジェラの前足は人外のそれだが、感覚は人間の手のように繊細だ。
然るに、リンネがその感覚をすり抜けた事になる。
(クノイチ…ね。)
「ふふ、早速嫌われちゃったわ。残念。」
わざとらしく困った顔で首をかしげて見せる。
「でも、許さないって具体的にどうするつ」
言葉を紡ぎながら、咄嗟に前足で人の部分を庇う。と、同時に鋭い痛みが走った。ぬるりとした動作でリンネが前足の下から現れる。
リンネの右手から繰り出される一閃を、前足で押し潰す。
「…躾のなってないクノイチね、話の途中よ。」
再びリンネを捉えようとするが、またするりといなされる。拮抗していた力がなくなり、バランスを崩すと、リンネの指に挟むように持たれた薬瓶が、アンジェラの顔に目掛けて振り抜かれた。
開いた薬瓶の口から、粉の薬品が顔面に投げ付けられる。
「ッッ…」
目や鼻を覆っても間に合わない。
手先から痺れ、舌も顔の筋肉も硬直する。
薬を吸い込んだアンジェラの体は動けなくなり、その場に崩れた。
やがて気道も麻痺した体は、呼吸が弱くなり、極度の酸欠で意識を手放した。
「…。アンジーの声で喋らないで。」
リンネは言うと、倒れたアンジェラの体の傍らにかがみ込んだ。
今度は数滴アンジェラの鼻先に別の薬品を落とす。鼻に吸い付くような甘い匂いが立つ。
「アンジェラ…」
呼び掛け、体を揺する。
「起きて、…アンジー。アンジーは死んでない。だから起きて。」
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