1.倉庫街を逃亡中

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1.倉庫街を逃亡中

 全速力で飛び込んだ扉の取手を引っ掛け、力尽くで引き絞る。そのあまりの重さに腕がきしみ、思わず声が漏れた。腹に力を入れてできるだけ小さな声で気合を入れる。 「早く、閉まれ!」  ギギと響く僅かな音ですら不吉を呼び寄せる警告音に聞こえるが、今はそれを気にする余裕はない。閉じる方が先決だ。固い。まるで床と一体化している。いや、音がするということは動く。動くはずだ。そうに違いない。そう願って背筋と上腕、それから踏み込んだ足に更に力を込める。背筋に沿って汗が流れる。ようやく扉はギという音とともにゆっくりスライドを始め、半ばまで到達したところでスルリと滑り、反対側の扉枠に激突しそうで慌てて逆側に力を込めた。  激突は免れたものの急な力の反転で前腕の内側が引き攣る。けれどホッとしながら荒く息を吐いた。最後まで扉を締めて鍵をかけ、その場に崩れ落ちそうになる足をなんとか動かし奥に急ぐ。  ヤバイ、あいつはどう考えても正面から倒せない。動きを見て実感した。プロだ。それが突然襲いかかって来た。思い出すと冷や汗が流れる。  考えろ。  どうしたら。  どうしたらいい?  安全にここから逃げるには。  あいつはここまで追ってくるか? わからない。狙いは無関係な俺らじゃないように思えるが、無差別かもしれない。チカチカする頭を必死で巡らせる。  まずすべきは安全確保だ。膝下が揺れて全身に力が入らない。滝のような汗にシャツが重い。頭のふらつきで酸素不足に気付き、足を止めて深呼吸する。バクバクする心臓の音とゼェゼェと自分の呼吸音が混ざってうるさく頭を苛立たせる。
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