Run, corpse run

１．倉庫街を逃亡中

　タイは最近知り合ったチンピラだ。今日の昼、俺のスマホに東矢が拉致られたかもしれないという善意の連絡があった。
「あんなとこにノコノコ行くやつなんかいないだろ」
　俺は恐ろしく運が悪い。変な場所には行きたくない。間違いで危険な場所に行くのはまっぴらごめんだ。
「あんな影の薄いやつ、そうそういないだろ」
　ああ、それなら確かに東矢だ。あんなに影の薄い人間は滅多にいない。俺みたいに運が悪い人間も滅多にいないけれど。

　試しに東矢に電話をかけても繋がらなかったしメッセも未読スルー。以前お互いに入れた待ち合わせ用のGPSアプリを起動すると、そこは確かに旧神津港南側区画でため息が出た。まじかよ。

　結構真剣に助けに行くべきか悩んだが、結局の決め手は東矢が俺の唯一の友人だということだった。それでまんまと来てしまったわけだ。
　もともとは運が悪すぎる俺をいざという時に助けてくれないだろうかと思って築いた友人関係だったが、今のところ収支は圧倒的にマイナスで、だいたい俺が助けている。
　でもまあ、100に1でも助けてくれれば御の字だ。俺にそんな友人は他にいないんだから。だからまぁ、助けに来たこと自体は後悔していない。だがこの状況はなぁ。
　こいつはどうしてこう迂闊で危機感がないんだろうな。そもそも普通南側区画なんて普通立ち入らないだろ。