私の居場所

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私の居場所

大学受験は悲惨だった。 親も私の成績を分かっていたはずだけど、私を応援してくれ、私のやりたいようにやらせてくれた。 それが私を縛り付ける。 私は到底届かない国立大学の医学部を受験した。 受験するしかなかった。 期待は裏切れない。 1年浪人してまた同じ受験をした。 浪人中に理系科目だけは挽回した私は滑り止めの私立大学に合格した。 合格した私立大学は関東。 父親は2浪を進めた。 私は初めて親の希望に反する決断をした。 たった一人で知り合いもいない関東に上京。 親は過剰なまでに心配した。 でも私はどこかでほっとしていた。 誰にも気を使う必要はなく、自分らしく生活できる。 今までの私を知っている人は誰もいない。 それが私を自由にさせた。 自分でつくった"優等生"の殻からやっと抜け出せる。 いわゆる大学デビューだ。 毎日が楽しかった。 帰宅時間も気にする必要はない。 どんなに遊んでも、親にがっかりされることも心配されることもない。 青春というものをはじめてちゃんと楽しんだ。 でも根は真面目。やるべき事はちゃんとやったし、大学での成績もいい方だった。 大学1年の夏休み 実家に帰省した私は思い知る。 帰省しても、家族や親戚以外に会う友達がいない。 私には、地元の友達がいない。 小学校の時の友達とはたまに連絡はとっていたけど、その友達は結婚して子どもがいた事もあって会う話にまではならなかった。 寂しかった。 高校までの私の人生はなんだったんだろう。 ここにいたのは誰だったんだろう。 私だけど、私じゃなかった。 その翌年 更に私の心に不安を感じさせたのは、実家の雰囲気。 なんだか違う。 私の知っている実家ではない。 それもそのはず。 一番下の弟が地元の中学に入学してから非行に走り、縁を切らせるために家族は一旦祖母の家に引っ越し、弟は全く別の土地の中学に転校した。 それを聞かされたのは帰省して数日経ってから。 なにも知らなかった。 上京して年を重ねる毎に、親さえも私の事は気にしなくなっていった。 子離れしたとはまた違うような、私の事はどーでもいいんだなと感じる何かがあった。 弟の事があって、弟の事でいっぱいいっぱいだったのかもしれない。 一番下の弟は、転校先の中学で元々頑張っていたテニスに力を入れ、テニスで高校推薦を決めた。が、高校受験後に警察沙汰を起こしてしまい、テニスで高校推薦合格したはずなのにテニス部には来ないでくれと言われ、帰宅部仲間でまた非行に走った。 帰省すると、私は自分のテンションを上げ、出来る限り明るく振る舞った。 家族の重い空気を吹き飛ばす気持ちで。 私が地元の大学に通っていれば 私が上京しなければ もしかしたら家族はこんなことにならなかったかもしれない。 私がいたから、私がいなかったから、どうにかなった話ではないのかもしれないけど、でもそんな考えがずっと心の奥にあった。
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